『Lの世界』よりも、"Exes & Ohs"の方がおすすめ

ナブラチロワは正しかった…… - 『Lの世界』について

Lの世界 vol.1Lの世界 vol.1
ミア・カーシュナー

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2008-02-02
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日本語版DVDが発売され、何かと話題になっているレズビアンドラマ『Lの世界』。アメリカでの放映開始時には、


レズビアンじゃなくてバイとヘテロのキャラばっかりじゃん」
「フェムばっかりでおかしい。ノンケ受けを狙いすぎ」
などとレズビアンたちからけっこう批判されていた*1上、マルチナ・ナブラチロワ

「ここには私達の期待するものは何もない」
と酷評されたりもしていたんですよね。そんなわけで、うちでは、北米リージョンでも日本リージョンでもDVD-BOXを一応買うだけは買って、あんまり見る気になれずに積んであったのですが。
ついさっき、彼女と一緒に日本語版VOL.1を見てみました。彼女は開始後30分で席を立って猫の世話を始め、あたしはすごく頑張ったものの50分で挫折しました。VOL.1に関する限り、やっぱりあなたは正しかったわ、マルチナ。

ここがヘンだよ『Lの世界』VOL.1(ネタバレあり)

以下はVOL.1を見ながらあたしと彼女の間に飛び交った意見をまとめたものです。

1. マリーナとジェニーについて


レズビアンがいきなりノンケを口説こうとする時点でもうありえないよねー……」
「ノンケ萌えなレズビアンもいることはいるから、100パーセントありえないとは言わないけどさ。でも、あれじゃただのバカじゃん、マリーナ」
「ああでもしないとノンケ視聴者に『自分たちと接点がない話』と思われちゃうってことで、あえてそうしたのかしらね?」

2. レズビアンはヤリヤリでヘテロのオカズ?


レズビアンドラマのはずなのに、ノンケセックスだのノンケのフェラチオだの出しすぎ。『Lの世界』の先輩的なゲイドラマ"queer as folk"にはヘテロセックスなんて出てこなかったのに、なんでレズビアンドラマだとこうなっちゃうわけ?」
「しかも、ヘテロ*2セックスになだれこむきっかけが、『そのキャラが、お隣のレヅカップルの乳繰り合いを見て興奮したから』でしょ。結局『レズビアンヘテロを興奮させるオカズ』ってポジションなのかなあ」
「要するに、あの乳繰り合いを見て興奮したノンケの皆様に『さあ皆さんのためのシーンも入れましたよ、ここで一本抜いてね』ってことなんじゃないの?」
「(レズビアンキャラの)『友情は前戯よ』とかいう台詞が出てくるのもさー、『レズビアン=ヤリヤリ』っていうイメージがありそうでやだよね」
「レヅ友といちいち寝てたら身がもたんっつーに」
「ねー」

3. キャラの皆さんの外見について


「そもそもヘアスタイルとファッションが全然レズビアンじゃないよね」
「フェム率が高すぎて異様。モブまでフェムばっかりっていうのはどういうことよ。シェーンなんかはかなり頑張ってるけど、髪が長すぎるし」
「やっぱり、視覚的にノンケ視聴者に媚びとかないと視聴率取れないってことなんでしょ」
「だとしても、あまりにもオサレな美人揃いすぎて嘘臭いわ」
「ドラマだからしょうがないって部分はあるんじゃない? ノンケは『デスパレートな妻たち』を見て『美人妻ばっかりでリアリティがない』って怒らないでしょ」
「いや、デス妻は徹底してゲイのプロデューサーの美的センスで作り上げた作品だから、また話が違うわよ。『Lの世界』は、センス云々というより、単にノンケウケを狙ってると思う」
「キレイな人たちがレズビアン役を演じてくれるのは嬉しいっちゃ嬉しいんだけどね」

4. テニス選手という設定について


「今時テニス選手のレズビアンっていうキャラ設定は古くない? それって20年以上前の感覚だよね」
「もはや『レズビアンのテニスプレイヤー』っていうイメージはベタすぎて一種のギャグになってるもんね。映画『四角い恋愛関係』(参考)のあれみたいに」
「作り手側が、シャラポワの時代とナブラチロワの時代の違いが全然わかってないんじゃない?」

5. 精子バンクを使いたがらない理由がわからん


「ノンケの精子は嫌だなんて、逆差別じゃん」
「つか、このカップル、セクシュアリティが遺伝に影響するとでも思ってるわけ? 頭悪くね?」
「そもそも、子作りのために片方が仕事を辞められるぐらいお金があるなら、ロージー・オドネルやアンジェリーナ・ジョリーみたいに、発展途上国の恵まれない子供を養子にもらえっ!!」
「そうだそうだ。だいたいさ、海外のどっかの養子縁組機関の人が『どうしても白人の赤ちゃんばかりが先に引き取られて、残るのは有色人種の子供たちなんです。でも、ゲイカップルは、喜んでそうした子供たちを引き取って大事に育ててくれます』って言ってたじゃん? あたしあれ聞いて『やっぱり差別のくだらなさを知っている人たちは違うのね!』ってちょっと誇らしく思ってたんだけど、『Lの世界』のこのカップルはマイノリティ魂がなさすぎ」

6. 開始50分後ぐらいのあのシークエンスについて(※激しくネタバレあり)

ここはもう一人で見てたので、以下はあたしの独白。


「何これ!? 日本のくだらねーレズエロ漫画にありがちな『お、俺も混ざっていいすか?』パターンじゃん!! うっわ、見たくね。くだらね。てか、精子バンクを拒否して男とナマでやろうとする時点でもうレズビアンじゃないでしょーが。
(男性の『レズビアンが男を誘うのは精子目当てか』という台詞に)違うって! 嬉々として野郎込みの3Pを企画する(一応、未遂に終わってますが)女なんて、レズビアンじゃないっ*3!! 一緒にすんなあああああ!!」
ここまで見て思ったんだけど、このカップルがああまでして精子バンクを拒むっていうのは、要するにこの3Pシーンを入れるための設定だったんじゃないでしょうか。やーね。

7. ここまでのまとめ

全然レズビアンドラマに見えなかったです。最初のあたりは、「(口説く・口説かれるとかで)ノンケさんとの接点を作った方が共感してもらいやすいだろうから仕方ないか」とか、「とにかく視聴率取らなきゃ打ち切りだし、キャラの外見をヘテロ好みのフェム路線で揃えるのも必要だったのかも」と思わんでもなかったんですが、あの3P未遂が出てきた時点でもう駄目。耐えらんない。少なくとも第1話の時点では、『レズビアン不在ドラマ』だわ、ありゃ。ナブラチロワ様は正しかったわ。
何話か見続けていれば面白くなるのかもしれないし、とりあえず今後もDVD-BOXは買い続けますが(北米版もシーズン4ぐらいまでは既に買ってあります)、とりあえずうちでの『Lの世界』VOL.1の感想は上記の通りです。

『Lの世界』より断然おすすめなレズビアンドラマ"Exes & Ohs"

さて、ここまでさんざん『Lの世界』に苦言を呈してきたわたくしですが、それじゃどんなレズビアンドラマがおすすめなのかというと、断然"Exes & Ohs"です。これはおっもしろいよー! 第1話だけ比較しても、つぎこんであるアイディアの量が、『Lの世界』より確実に上だと思います。まず、変な「官能の世界」狙いではなくて、ひねりのきいたユーモアが小気味よく効きまくってるところが素敵です。レヅ友同士の会話とか、本当によく練られていると思います。レズビアンのキャラクタたちにもリアル感があって(ちゃんとベイビーダイクやブッチダイクも出てきます)、そのくせしっかり可愛い感じ。別れた彼女を思い切れない主人公の言動にもほろ苦いユーモアがきいてて、いいんですよこれがまた。
ためしに第1話の最初の10分間のあらすじを書いてみると、こんな感じ。


主人公ジェンがある日サウナでレズビアン友達とバカ話をしていると、近くでいちゃいちゃと絡み合う女性同士のカップルが。あらまあ、と苦笑しつつそのカップルをよく見ると、なんと片方はジェンの彼女。おまけに相手は、彼女がかかっていた精神科医だった!

1年後。周囲のレズビアン友達から、元カノ(別れた)と精神科医の結婚式に行くようにさんざん説得されるものの、どうしても行きたくないジェン。でも実は、まだ元カノのことが忘れられなくて、彼女が残していった荷物すら整理できてない始末。「別れたときの最後のディナーの鍋までまだ取ってあるなんて!」と、レヅ友にもツッコマれるぐらい。とりあえず、レヅ友を式まで車で送っていって、ついでにみんなからのプレゼントを式場に運び込む手伝いだけすることになる。式に出る気はないから、服装なんて、実にどうでもいいフリース姿で。実はこれも元カノとの思い出の品らしいところが泣かせるんですけど。

結婚式会場はリッチなヨットの上。精神科医、金持ってますからね。船上でばったり元カノと出くわして気まずい思いをしているところに、なんとヨットが岸を離れてしまう。ドレストアップした人々の中、異様にカジュアルなフリース姿で、前には元カノ、後ろには海。まさに逃げ場なし。どうする、ジェン!?

ちなみに第1話は、放映局の公式サイト(http://www.logoonline.com/shows/dyn/exes_and_ohs/videos.jhtml)で無料で全部見ることができます。お金を出して買うなら、アメリカのiTunes Storeで第1〜6話をまとめて購入しても、たったの9ドル99セント。米アマゾンでもダウンロード販売が始まっていて(DVDは予約受付中)、こちらは1話につき1ドル99セント。本当におもしろいので、興味がおありの方はぜひどうぞ。

*1:あくまでも放映開始直後の話であり、話数が進んでからだとまたちょっと評価も変わってくるっぽいんですけど。

*2:実はあのおねーちゃんが自らの性的指向を無意識的に抑圧していたレズビアンまたはバイセクシュアルだったって設定なのかもしれませんが、それならそれで、『エンジェルス・イン・アメリカ』のあのモルモン教の隠れゲイのキャラクタぐらいに説得力のある描き方をしてくれればよかったのにと思います。

*3:そうは言っても、セクシュアリティというのはものすごくいいかげんな枠であり、結局自己申告でしか定義できないから、男とヤろうと何しようと当人が「レズビアンです」とアイデンティファイすればそれで終わりと言えば言えます。一応。