アナ雪はなぜ大ヒットしたのか、または、なぜオラフが映画中一番のイケメンなのか(※ネタバレあり)

Frozen (Deluxe)

Frozen (Deluxe)

  • アーティスト: Idina Menzel,Kristen Bell,Jonathan Groff,Josh Gadd,Demi Lovato,Robert Lopez,Kristen Anderson-Lopez
  • 出版社/メーカー: Walt Disney Records
  • 発売日: 2013/11/25
  • メディア: CD
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字幕版2D(感想)と吹き替え版3D(感想)を映画館で観て、その後はiTuneStoreで買った北米版を何度も何度も観ながら、まだ映画『アナと雪の女王』について考え続けています。トータル10回ぐらい観た今思うのは、この映画が世界中でここまでヒットしたのは「愛 vs 恐怖」という人間にとってきわめて根源的なテーマを、ストーリーでもビジュアル面でも同時に追っているからなのではないかということ。

ここで重要になってくるのが、オラフとマシュマロウの存在。メインストーリー上ではもちろんアナが愛を、(救われるまでの)エルサが恐れを象徴しているわけですが、オラフとマシュマロウのふたり(ふたつ?)もまた対になって愛と恐怖を表しているからです。

オラフはもともと、アナとエルサが愛に満ちた少女期を送っていたころにつくられた存在。初登場時の台詞"Hi, I'm Olaf, and I like warm hugs."(『やあ、ぼくはオラフ、ぎゅっと抱きしめて』)や、暖炉の前での決め台詞"Some people are worth melting for."(『アナのためなら溶けてもいいよ』)からも、彼が愛のメタファーであることがよくわかります。雪山をさまようエルサが無意識のうちにつくった雪だるまがオラフだったのは、恐怖で凍り付いたエルサの中に、アナへの愛がまだちゃんとあることを示しているわけ。そして、オラフを表すイメージが「夏」と「暖炉」であるのは、彼が愛という暖かなものの象徴だから。

一方マシュマロウは、エルサの恐怖が実体化したもの。氷の城でエルサが彼を生みだした瞬間の表情を思い出してくださいな。そこにあるのは怒りではなく、アナを傷つけてしまうことへの恐れです。マシュマロウの背中のトゲトゲもやはり、エルサの恐怖心の現れ。エルサが自らの力を恐れれば恐れるほどマシュマロウは荒れ狂い、トゲが剣呑に伸びていくんです。そして、マシュマロウがあくまで雪と氷の中にいるのは、彼が恐怖という冷たく険しいものの暗喩だから。どこからどこまで、オラフと対をなしているんです。

「愛」も「恐怖」も、いつの時代のどの国のどんな人の中にでもある原始的な感情です。このおそろしく根源的なものの対称構造と、その上での愛の勝利というテーマをここまでわかりやすく描いたことが、この映画が大ヒットした理由なんじゃないでしょうか。オラフがこの映画最大のイケメンなのも、彼が「愛」の塊だからです。どんな王子様だって、愛そのものの具現には勝てませんよそりゃあ。

このように考えてくると、エンディングロールの後に出てくるマシュマロウのこのカットが、映画全体の意味内容を凝縮したものであることがわかります。


Disney Frozen - Marshmallow Scene HD - YouTube

マシュマロウの背中のトゲが恐怖。ティアラは愛。愛を得た瞬間、頭上から光がふりそそぎ、マシュマロウのトゲは消え去ります。彼のとろけそうな微笑みが、オラフの笑顔を思わせるのは、決して偶然ではないはず。こうしたメタファーがあまりにもうまいことが、この映画の最大の魅力なんじゃないかな。

さて、以下は余談。

アナ雪、日本語より英語で見た方が、上記のテーマがスカーンと頭に入ってきますよ。なんとなれば、上でつらつらと書いた「愛と恐怖」というテーマ、原語だとオープニング曲の"Frozen Heart"(邦題:『氷の心』)で思いっきり歌われているのに、日本語訳詞にはかけらも出てこないから。他のところでも、"Let It Go"(『ありのままで』)や"For the First Time in Forever"(『生まれてはじめて』)の中で、エルサが閉じこもっていた理由が英語と日本語では微妙に変わっちゃってたりするでしょう。英語だと父に刷り込まれた抑圧を歌っているのに、日本語だと自分から勝手に「誰にも会いたくない」と閉じこもっていたみたいになっちゃってる。これだとエルサの心を縛り付けていた恐怖は、100%は伝わってこないよね。このあたりはやっぱり翻訳の限界だと思うの。ちゅーわけで、「3Dを楽しむために映画館に行ったのち、おうちで北米版を英語字幕onで見る」というのが、いちばんのおすすめです。

もちろん、字幕でも吹き替えでも、日本語訳はそりゃもうありえないほどがんばってると思うんですよ。歌の部分のみならず、喋りの部分まで口の形が合うよう工夫して訳されてるんだもの、なんという超絶技巧かと思いました。たとえばアナが川にはまって「凍っちゃう、凍っちゃう、凍っちゃう」とあわててオーケンの店に向かう場面、あれ原語では別に"Freezing, freezing, freezeng..."とは言ってないんです。"Cold, cold, cold..."なんです。口の形を合わせるため、「冷たい」ではなく「凍っちゃう」としたわけ。うまい。松さんと神田さんの歌と演技もそれはそれはすばらしかったし、日本語サントラも光の速さで予約しちゃいました。あと何回でも吹き替えで観に行きたいぐらいよかったです。

……でもやっぱり、この映画のテーマそのものは、英語で見た方がよりわかりやすいと思うんですよ。日本語だけで見て、日本語のシナリオだけを素材に論評しようとすると、微妙にズレちゃう可能性があると思います。ディズニーは英語版脚本をPDFで公開しているので、ご興味がおありの方はそれを読んでみるのも一興かと。