超能力者の悲劇と、「真実の愛」――映画『アナと雪の女王』感想

『キャリー』のディズニー映画版、真実の愛つき。おもしろかったー!

ディズニー映画『アナと雪の女王』を観てきました。すばらしかったです。「これはつまり『キャリー』のディズニー版で、そこに『魔法にかけられて』や『美女と野獣』にも通じるテーマを込めた作品なのだな」とあたしは思いました。色彩や音楽を巧みに使った演出もよかった。字幕版2Dでの鑑賞だったので、後で吹き替え版3Dも観に行くつもりです。

超能力者の悲劇としての『アナと雪の女王

この映画の舞台は、北欧にあるアレンデール王国。上の王女エルサには触れるものを何でも凍らせる力があり、危険だからとその力を押し隠して、人との関わりを避けて育ちます。けれどやがて制御できなくなった力が国中を凍らせ、エルサは城から出奔。妹のアナがエルサを助けようと奮闘する、というお話です。

早い話が、エルサがキャリーでアナがスーザン・スネルなわけですよ。第86回アカデミー賞で歌曲賞を受賞した主題歌「Let It Go」の場面はつまり、キャリーが力を解放してプロム会場を爆発させ、街中を破壊して歩く場面に相当するわけ。


Disney's Frozen - "Let It Go" Sing-Along Version - YouTube

実際これは、「ありのままの自分」を肯定する名場面ではあるものの、同時にぬぐい去れない絶望と悲しみも色濃く漂っています。ディズニー映画だから人こそ殺されませんが、実質的にはキャリー・ホワイトと同じ孤独を描くシークエンスなんです。子供向けの映画でこれをやってのけるあたり、凄すぎる。

悲劇を救う「真実の愛」とは

お話の後半に、「凍ったハートを溶かせるのは『真実の愛』だけ」という説明が出てきます。あまりにも真実の愛、真実の愛と連呼されるので、正直安っぽく見えてもしまうんですよ、途中までは。ここで「途中までは」と書いたのは、この映画には『魔法にかけられて』と共通する部分があるからです。つまり、「出会ったばかりの人にのぼせあがって婚約してキスするのは果たして『真実の愛のキス』なのか?」というシニカルな視点があるんですね。愛、愛と叫んでいても、ただのロマンチックラブ礼賛ではないんです。

最終的にエルサやアナを、そしてアレンデールを救う「真実の愛」には、「愛とは我欲を捨てて相手の幸せを願うこと」というメッセージが込められており、『美女と野獣』にも通じるものを感じました。『美女と野獣』では、ベルと野獣の間にその愛が形成されるまで8ヶ月かかっていますが(ほら、秋の風景で始まり、雪が降って、春にハッピーエンドになったでしょう?)、『アナと雪の女王』では、メインカップルの出会いから結末までほんの2日かそこら。ディズニーがそこをどう料理したかは、観てのお楽しみ。予想外の、でも大納得のクライマックスでしたよ。

色彩と音楽での演出

色彩については、これはもう「さすがディズニー」としか。エルサとアナの衣装に共通色のグリーンをあしらい、その上でエルサには後退色である紫のマントをはおらせて二人の性格の差を暗示するところなど、うまいなと思いました。途中でそれぞれ衣装が替わるのも、二人の立場の変化を示してますよね。

音楽は、「Let It Go」はもちろんのこと、イディナ・メンゼルクリステン・ベルの掛け合いが冴えわたる「For The First Time In Forever」も、トロールの歌う「Fixer Upper」も最高でした。この映画はたぶんブロードウェイミュージカル化されると思うんですけど、この「Fixer Upper」が「Be Our Guest」なみの見せ場になるんじゃないかな。しかし、作中でもっともびっくりさせられたのは、アナとハンス王子の出会いの曲「Love Is an Open Door」でした。あの妙なポップさが、実はひとつの伏線として後々効いてくるんです。うますぎるよ演出!

「Love Is an Open Door」の邦題は「とびら開けて」。日本語訳詞版(神田沙也加がまたいいんですよ)を下に貼っておきます。

[Frozen] Love is an open door (Japanese) with lyrics - YouTube

まとめ

「絶望を救うのは愛。そして愛とは出会ったばかりの男女が浮かれてチューすることじゃない」というテーマを、おとぎ話とすぐれた楽曲に乗せて胸郭に叩き込んでくれる傑作映画。上の方で劇中の「Let It Go」は絶望と孤独の場面だと書きましたが、全部見終わってからエンドクレジットで流れるアップビートな「Let It Go」をもう1度聞くと、歌詞の意味が全然違って聞こえてきますよ。そんなところも、とてもよかった。