HIV感染症/AIDSはもはや死の病ではないし、コンドームを財布やタンスに保管するのは危険

上記リンク先なんですが、いろいろと情報が不正確だと思います。鵜呑みにしたり、ましてやこの真似をして若い世代に性教育したりするのは危険かと。はてなブックマークで上記記事を絶賛してる方々、大丈夫ですか?

現在ではHIV感染症は死の病ではなく、「慢性疾患」です。

江端さんの忘備録(2013-10-17)コンドームの効果を、技術者視点で娘に淡々と語れる人の中には、このような記述があります。

長女:「エイズ・・・」

江端:「後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome:AIDS)。詳しいことは省略するが、感染すると潜伏期間が恐しく長く(10年程度)、発病すれば、原則死に至る病(やまい)だ。現在、完全に治癒できるクスリは存在しない」

死に至る病やまい)」という形容は不正確で、かつ、HIV陽性の(リスクのある)人を不必要に脅すものです。以下、“死の病”から“慢性疾患”へ……HIV・エイズの今 | NHKテキストビューより、国立国際医療研究センター 臨床研究センター長の満屋裕明さんのお話をちょっと引用してみます。(※以下、強調はすべて引用者によります)

以前はエイズの発症を防いだり、病気の進行を食い止めることが難しかったため、エイズといえば“死の病”と捉えられがちでした。しかし、この15年ほどで治療が飛躍的に進歩し、エイズは一生つきあっていく“慢性疾患”と考えられるようになってきています。

実際に、HIV感染者の平均余命は、この10年間で約16年も延び、20歳時で約46年になっています。ただし、これは適切な治療を受けた場合のことで、全く治療を受けなければ、余命は感染後数年から長くても10年に満たないと考えられます。

さらに以下、全日本民医連 | 特集2 進歩するHIV感染症治療 “死なない”病気になってきたより、都立駒込病院感染症科・今村顕史さんのお話です。

治療法の進歩に比べ、仮に自分が感染者だと思って日本の社会を見回してみたときに、どうでしょう? 感染者を支える環境はあまりできていませんね。まだ「必ず死ぬ」「うつりやすい」という誤解があります。

わざわざ今さら若い世代にこの「『必ず死ぬ』『うつりやすい』という誤解」を広める必要はないと思うんですね。百歩譲ってコンドームをつけさせるための方便だとしても、かえって要らぬ恐怖感や、感染者への偏見・誤解を増大させるデメリットの方が大きいと思います。

死ぬ死ぬ言って恐怖や誤解を煽るだけだとどうなるか? こんなことになるんですよ。


The Fosters: Girls United - Webisode 5 - United We Stand - YouTube

これは米ABCファミリーで放映中のドラマ『The Fosters』のスピンオフ版の一場面。ある矯正施設から「ギャビー」という少女が脱走した理由が、自分がHIV陽性だと知って「AIDSで死ぬんだ」と絶望したためだったとわかるシーン(4:00〜)が出てきます。ちょっと台詞を訳してみますよ。

ギャビー(泣きながら)「あたし死ぬんだ。AIDSに治療法はないもん」

カウンセラー「あなたはAIDSじゃないわ。ウイルスを抑える治療法があるから、AIDSにはならないの」

これはカウンセラーが正しいんですね。今はいい抗HIV薬が出ているから、適切な治療を受ければたとえHIV陽性であってもAIDSを発症させずに普通の生活を送ることができるんです。しかし、HIV=AIDS=死ぬんだ! と思い込んでいると、助かるものも助からなくなってしまう。これはそんな子たちを救うために作られたエピソードであって、それが証拠に動画の最後にはHIV検査についての啓蒙サイトのURLが紹介されています。

子供をHIVから守るというのは、こういうことを言うんだと思うんです。コンドームとて感染を100パーセント防げるものではない以上、80年代の亡霊のような「死の病」イメージで脅すだけでは足りません。

コンドームを財布やタンスの中に保管すると、破損のリスクがあります。

江端:「このコンドームを常時携帯しろ。サイフの中がベストだが、鞄の奥でも構わん」

という訳で、折角、私の買ってきたコンドームは、タンスの引き出しに格納されることになりました。

……と、江端さんの忘備録にはあるのですが、どちらもおすすめできない保管法です。コンドームメーカーのジェクス株式会社のWebサイトには、こうあります。

揮発性物質のそばに置いておくとゴムが劣化しますのでご注意ください。(タンスの防虫剤など) 財布の中など、1個包装での携帯は包装が破ける恐れがあります。

HIV/エイズ関連情報 - Yahoo! JAPANにも同様の説明がありますね。わざわざ破損のリスクの高い保管方法を次世代に教えることはなかろうと思います。

まとめ

  1. もはや「HIV感染/AIDS=死」という時代ではありません。
    • コンドームの使用は重要ですが、そのために「死の病」という前世紀の遺物的イメージを煽ると、助かるものも助からなくなる可能性があります。
  2. コンドームをタンスや財布の中に保管するのは危険です。
    • 劣化による破損を防ぐため、揮発性物質(防虫剤など)や温度変化、摩擦などの影響が少ない場所に保管しましょう。持ち歩くなら、市販のコンドーム用ハードケースを使いましょう。