豪マルディグラで警官による暴行事件か 警察は内部調査を発表

シドニーのLGBTQIパレードであるマルディグラ2013で、警官から参加者への暴行が2件あったと報告されています。問題の場面を他の参加者が撮影した動画がYouTubeで公開されており、警察は調査すると発表しました。

事件1: 18歳少年、後ろ手で手錠をかけられ、頭から地面に叩きつけられる。

何が起こったかは、まず以下をどうぞ。

動画前半では、警官が上半身裸の男性を拘束しようとしており、それに抗議する女性の声が聞こえます。撮影者は警官のバッジを録画しようとしている模様。女性の声は「これは違法でしょ」「彼の頭を叩きつけるところを見たわよ、彼の血が地面についてる、あんたのせいよ!」などと叫んでおり、カメラが地面に寄ると、確かに、そこに落ちている紙(ビラ?)に赤い染みがついているのが見えます。
その直後、バシッという音がし、カメラが上を向くと、警察官が先ほどの男性を地面に投げ倒すところが見えます。男性は後ろ手に手錠をかけられているため、手をついて身を守ることができず、ビシャッという音とともに顔から地面に突っ込んでいきます。警官は、うつぶせに倒れた男性の背中を踏むような動きを見せます。警官のひとりは撮影者に向かって「撮影をやめなよ、メイト」と話しかけ、理由を訊かれて「やめろといったからだ」と説明しています。
投げ倒された男性は、うつぶせに倒れたまま泣き始めます。動画の最後の方では、複数の目撃者が、「警官は男性の喉をつかんで頭を地面に叩きつけた」と説明しているところが映ります。ショックのあまり涙を浮かべている目撃者もいます。

別角度から撮られた動画がこちら。

このとき地面に叩きつけられたのは、18歳のジェイミー・ジャクソンさん。彼はその後7 Newsの取材に対し、「警察からあんな風に扱われる覚えはない」と話しています。警察の見解では、ジャクソンさんは「女性を蹴ろうとし、その後警官に襲いかかった」ために手錠をかけられたとのことですが、ジャクソンさん本人は「そのへんをただぶらぶらしていただけ」で、女性には軽く身体が触れただけだと話しています。

仮に警察の言っていることが本当だとしても、既に手錠をかけられ、複数の警官に取り囲まれているティーンエイジャーをさらに頭から地面に投げ倒すことにいったい何の意味があったんでしょうか。

事件2: 別の参加者、やはり警官たちに地面に叩きつけられ、痣だらけに。

こちらは動画はないのですが、証言と写真があります。ゲイ・アクティヴィストのブライアン・ハッチンソンさんが夜11時頃、道を渡ろうとしていたときに警官から止められ、複数の警官に身体をつかまれて地面に叩きつけられたのだそうです。ハッチンソン氏はその後のことをこう説明しています。


「彼らはわたしの背中の上に体重をかけてきたので、うまく息ができませんでした。うまく息ができないと言うと、警官のひとりが、『しゃべれるんなら息もできるさ』と言いました。わたしは警察のいかなる介入にもいっさい抵抗する気はありませんでしたが、息をするために本当にもがきました。警官たちは背中に体重をかけるのをやめず、さらにわたしを蹴りました」
“They were applying weight onto my back and I couldn’t breathe properly. I said I can’t breathe properly, and one of the officers said, ‘If you can talk, you can breathe’. I wasn’t resisting any sort of police intervention but I was really struggling to breathe. They didn’t stop applying the pressure and they had also kicked me.”

ぞっとしました。日本でも、こうやって警官に強引に押さえつけられて死んじゃう人がよくいますよね。

SameSameには、彼がこのとき負った怪我の写真が載ってます。腕も腰もひどい痣だらけです。手首の痣は、手錠を必要以上にきつく食い込まされたときにできたもの。

ハッチンソンさんがいったい何の容疑なのかと聞き続けたところ、警官のひとりが「警官への暴行」だと説明したそうです。なんでもその警官の脚に脚をかけたというんですが、ハッチンソンさん本人は身に覚えがなく、もしそんなことがあったとしたら、警官たちに押されたときに偶然脚がからんだのではないかと言っています。なお、この一件を目撃していたティム・メイヤーズ氏は、「ゲイバッシングには見えなかったが、警官は彼が協力的でなかったという理由で過剰に力を行使しているように見えた」と話しています。メイヤーズ氏は、警察がハッチンソンさんを蹴ったり踏みつけたりしているところを「100パーセント確実に見た」そうです。

警察は内部調査すると発表。

ニューサウスウェールズ州警察のマーク・マードック警視監は、「警察は事態を深刻に受け止めている」として、徹底した内部調査をおこなうと発表。目撃情報や、証拠となる動画を提供してほしいと広く呼びかけています。


マードック警視監によると、公共の場で撮影をおこなうのは「コミュニティの権利」であり、警察は事件が起こったとき証拠を集めるために動画を撮ることを「奨励する」ものだそうですよ。へええ。でも、上がどんなにご立派なことを言っていても、末端の警官が「撮るな、撮るな」と叫んでいたんじゃ形無しですね。もっと証拠が出てきて、あの夜いったい何が起こっていたのかはっきりするといいんだけど、どうかな。マルディグラが戦って勝ち取っていかなきゃならないものは、まだまだたくさんあるみたいですね。

蛇足

日本語メディアがひどいと思うのは、今GoogleNewsやヤフーニュースを「マルディグラ」で検索しても、これ一件しか出てこないこと。

好意的に書こうとしてるらしいのはわかる。わかるんだけど、マルディグラは「ゲイパレード」じゃありません。「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダークィア、そしてインターセックスの人たちに悪影響を与える差別や不平等との戦いを続けるためにやっていること」だと主催者サイドもはっきり言ってます。それをあたかも同性愛者の権利だけを訴えるものみたいに矮小化し、華やかさだけ強調するこの記事しか出てこないっていうのはどうよ。さらに、同じ日に起こった暴力事件を報じてるところはひとつもなしって、どういうことよ。百歩譲ってこれから報じられるのだとしてもずいぶん動きが遅いし、マルディグラ自体の扱いがこれじゃあまり期待できそうにもないわ。
そんなわけで「暗いニュースだし、わざわざ紹介しなくてもいいか」と思ってたこの一件をゴリゴリ訳してみました。日本のセクマイ界隈も、まだまだ勝ち取っていかなきゃならないものは多いと思うわ、あたしは。