フランス、トランスセクシュアリズムを精神障害の項目から外す(※追記あり)

フランスが世界で初めてトランスセクシュアリズム(これ、辞書にはいい日本語訳がないんですが、『トランスセクシュアルであること』ぐらいの意味だと思っといてください)を精神障害の項目から外したというニュース。

同性愛が病気ではないとみなされるようになってから数十年、ようやくトランスも同じ位置に来たわけですね。とは言え、これはほんのスタートに過ぎないというのが同国のトランスセクシュアルの意見のようです。単に精神疾患とみなされなくなっただけでは、トランスセクシュアルの法的・医学的な権利は向上しないからです。
フランスでは法律上の性別を変えるには性別適合手術を受けねばならず、手術を受けるためには広範囲にわたる医学鑑定や精神鑑定を受ける必要があります。つまり、パリのIDAHO(International Day Against Homophobia and Transphobia)のGeorges-Louis Tin氏が言うとおり、


トランスセクシュアルは今や精神的な病気ではありません」
"Transsexuals are no longer mentally ill,"

「彼らは正常な(※訳注:追記参照のこと)市民です。でも私たちはいまだに、トランスセクシュアルたちが医師や精神科医に頼らずに自分自身で決断を下すことを認めるところまでは到達していないのです」
"They're normal citizens. But we haven't yet reached the point where they're allowed to make their own decisions instead of depending on doctors and psychiatrists."
という状況なわけです。

ちなみにフランスの健康保険は性別適合手術に適用可能ですが、医師を選ぶ余地がほとんどないため、高コスト覚悟で国境を越えてベルギーまで手術に行く人も多いとのこと。そういう意味でも、まだまだ課題は山積みということらしいです。

とは言え、それでもやはりこれは大きな進歩だと思います。「性同一性障害」という言葉ばかりが一人歩きして、なんでもかんでも病気モデルで判断されてしまいがちな日本とはえらい違いですね。もちろん、医学的なケアが必要であることを指して「病気」と呼んで何が悪いという意見はあるでしょうが、じゃ、妊娠も病気なんですか。あれだって医学的なケアは必要なんですけど。ともかく、性的マイノリティに対する「病気なんだから」認めてあげましょうだの「病気なんだから」治せだのという視線にはもううんざりなんですよあたしは。
ちなみにフランス厚生省*1は、他のEU諸国にもトランスセクシュアリズムを精神障害の項目から撤去するよう促すとしているとのことです。

追記(2010年3月9日)

ここまで書かなきゃわからないのか(いや、あたしの訳がわかりにくかったってこともあるんだろうけど)とも思ったけど、何か誤解してる人もいるようなので一応書くわ。上記のGeorges-Louis Tin氏が、今回のことでTSを「今や病気ではありません。『正常な』市民です」(カギカッコ引用者)って言ったのって、皮肉でしょ? 「枠組みだけ変えて『正常』扱いしたって、まだまだ問題は山積みよ!」っていうことでしょ? この単語だけが目に飛び込んで「差別よぉ〜!」とパニックしちゃった人は、『差別論―偏見理論批判―』(佐藤裕、明石書店)とか読むといいですよほんとに。

単語・語句など

単語・語句 意味
extensive 徹底的な、広範囲の

*1:原文(英文)だとHealth Ministryとなってたんですが、これって厚生・家族・障害者省  (Ministère de la Santé, de la famille,et des personnes handicapées)のことなんでしょうか。よくわからないのでとりあえず「厚生省」と訳しましたけど。