『放浪息子(8)』(志村貴子、エンターブレイン)感想
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クィアネスと非対称性の1冊
女の子になりたい男の子「二鳥くん」と、男の子になりたい女の子「高槻さん」の物語。今回非常に面白かったのは、
- セクより「揺れ」のクィアネス
- 男女の異性装の非対称性
の2点でした。
1. セクより「揺れ」のクィアネスについて
二鳥くんとあんなちゃんの関係って、
の間を揺れていると思うんですよ。もっと言ってしまうと、結局友情だったとか、あんなちゃんから見て二鳥くんが妹みたいに可愛かっただけとか、そういう関係に収束する可能性さえある。さらに言うと、二鳥くんが男装の高槻さんについドキドキしてしまうところなんかは「MTFヘテロセクシュアル+FTMヘテロセクシュアル」の異性愛っぽかったりもしますよね。このように二鳥くんのジェンダーとセクシュアリティは今回も揺れまくりで、そこがたいへん面白かったです。
ジェンダーもセクも、一意にカテゴライズしちゃった方が楽だとは思うんですよ。「この人は“MTFレズビアン”だから“女”が好きなのだ!」とか、「“MTFヘテロ”だから“男”が好きなのだ!」とか。でも、それって要するに一種の思考停止でもあるわけ(日常生活の中で、あたしも含めて多くの人がやってることですけど)。この漫画は決してそうした思考停止に陥らず、二鳥くんの揺れ具合を大切に大切に描いていきます。人を単一の性別やセクシュアリティに落とし込むことより、「じっくりと揺れる」、「むしろ揺れを味わう」ことの方に力点を置いた描き方がまことにクィアですばらしいと思いました。これを読んでいると、いちいち人をジェンダーとセクで分類することがアホらしくなってきますよ。
2. 男女の異性装の非対称性について
今回二鳥くんはある大きな決断をするのですが、それによって男女の異性装の非対称性というものが浮き彫りにされていきます。二鳥くんと高槻さんは、同じようでいて実は同じではないんです。そこを容赦なく描き出す65話が、非常にインパクトがあってよかったです。
まとめ
二鳥くんの揺れを丁寧に扱うクィアネスと、後半の二鳥くんの行動が読み手につきつける「男女の異性装の非対称性」(を、支えている社会のバカらしさ)が面白い1冊でした。蛇足ながら、巻末のあの人のちょっとぎこちない女装が可愛すぎてモエモエしつつ、「なるほど、レズビアンを名乗ってるあたしだってけっこう揺れてるのかも」と感じておかしくなりました。性愛のカテゴライズを吹っ飛ばす素敵なクィア漫画だと思います。
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