『放浪息子(13)』(志村貴子、エンターブレイン)感想

放浪息子 13 (ビームコミックス)

放浪息子 13 (ビームコミックス)

高槻さんに変化のきざし。新キャラにも注目

まずは巻頭のキャラ紹介に注目を。「高槻よしの」の説明がこうなってます。


男の子になりたい女の子
思考がさまよいがちなフラフラガール

13巻はこの「フラフラガール」っぷりにはっきり焦点が当てられていくところがおもしろいんですよ。p. 138で千葉さんの台詞が再登場して以降、高槻さんは自分の身体と改めて和解していくようなフシがあり、しかもそれが台詞ではなく絵で綴られていくところがとくによかった。

ほかには新キャラの子持ち銀行員・海老名氏がよかったですね。海老名氏というのは、ふだんは中年男性として生活しつつ、のどぼとけのあるごつい体で女性の格好をして娘と外出したりしているキャラクタ。ほら、『放浪息子』って、ジェンダーの狭間をたゆたう漫画でありながら、二鳥くんも高槻さんもあまりにもかんたんに異性としてパスできてしまう(しかもかわいい/かっこいい)ところがズルかったりするじゃないですか。ここに至ってそのズルさを平気で捨ててしまっているわけで、なんという潔さかと感嘆しました。

海老名氏の、二鳥くんに無邪気な質問をされた場面でのこの独白(p. 82)なんて、胸に刺さること刺さること。


バカか このままでいいわけがないじゃないか

あんたみたいに若くてかわいければこの先も可能かもしれないね
世間も受け入れてくれるんじゃない

せいぜい許されるのは美人のニューハーフと芸のあるオカマくらいだ

小説家志望の皆本さんなる女子高生キャラに二鳥くんと海老名氏を「取材」させ、そこでいきなり「女装の文化史」だの「きっかけはなんだったのか」などのクソ失礼な台詞を吐かせるという残酷さにも、やられたと思いました。この漫画で、そこまで踏み込むとは。その後も、「放浪しているのも痛みをかかえているのも決して思春期のみなさんだけじゃないんだぜ」と思い知らされるよなインパクトある描写が続き、これだから志村貴子さんの漫画が好きなんだよと再確認いたしました。