2つの悪夢から「ラジカセ犬パフ」状態について考える

※今日の日記はバイオレンス描写ありです。苦手な方はお避け下さい。

本題に入る前に - ラジカセ犬パフとは?

「ラジカセ犬パフ」は、漫画『動物のお医者さん』(佐々木倫子白泉社)に出てくる犬です。パフは子犬の頃、自分の力では動かせないラジカセにつながれていたため、大きくなってからも「このラジカセは動かせない」と思っておとなしくラジカセにつながれています。人間もこのパフのように、回避できるはずの障害物を回避できなくなってしまうことがあり、心理学ではそのような状態は「学習性無力感」と呼ばれています。

一昨日見た悪夢 - パフ状態なわたくし

ボケてきたらしい母親に暴力をふるわれる。殴られたり罵られたりしても言い返すことさえできす、悔しくて絶望して泣きながら市役所で相談窓口を探す。窓口はみつからない。必死で自転車を漕いで本屋を何軒も回り*1、相談に乗ってもらえそうなところを本で探そうとする。……というところで目が醒める。

「うんうん、自分の親がボケてしまうと切ないよねえ」という話ではないんです。夢の中でさえあの母親を殴り返すことができなくてショックだった、という話です。うちの母親というのは、「自分のアル中夫が実の娘に酷い虐待をしようとするのを、見て見ぬふりで放置していた」という人ですよ。その「娘」というのがあたしです。そんな女にまた理不尽な暴力をふるわれる夢を見て、まったくやり返せずにオロオロしているだけだった自分にショックを受けたんです。
普段安全なところにいると「またひどい目に遭わされたら今度こそ負けない!」なんて威勢のいいことを考えてしまうのですが、いざ当事者の立場に引き戻されると案外何もできないもんだとわかりました。子どもの頃から長い年月をかけて叩き込まれた無力感というやつは本当に怖いです。簡単に「このラジカセは動かせない」と思い込んで、何もできなくなってしまいます。
被DV妻やいじめられっ子たちに「やり返せ」なんてやたらと言えたもんじゃありません。言えるのは「逃げて!!」ってことだけですね。戦わなくていいからとにかく距離をとって、できれば一生近づかずに済ませられればそれで百点満点だよ、と。

……と、思ったのですが。

昨日見た悪夢 - パフ状態でなかったわたくし

父親が、あたしの彼女に触ろうとしている。「てめえ女の子に勝手にベタベタ触ってんじゃねえーーーーーー!!」と絶叫したあたしは父親を彼女からひっぺがし、エルボー連打で床に倒してからキャメルクラッチをきめ、さらに顔面をボコボコに殴ってノックアウト。血まみれで倒れている父親の唇に、折れた眼鏡のフレームが刺さっていたので、さすがに「少しやりすぎたかな」とフレームをひっこ抜こうとするところで目が醒める。

何ですかこの夢(笑)。無力感どころか、完全勝利してるじゃん!
これはたぶん、父親には実際に殴り返して勝ったことがあるからですね。それまで一方的に暴力をふるわれるだけだったあたしが生まれて初めて力で父親に反撃した日というのが、前述の「酷い虐待」のときです。恐怖が臨界点に達して怒りに転化し、グレイシー柔術のごとく背中を床につけた状態から蹴りを叩き込んだら*2、あっさり勝ってしまいました。後日、その遺恨試合(試合なのか?)では、胴タックルに来た父親を英国海兵隊式(だと思う)のタックル潰しで潰し、脊椎にエルボーを入れて制圧しました。あ、父親は死んでませんよ念の為。
ウエイトトレーニーのあたしは、実はこの2件の乱闘事件の前でも、腕力ならとっくに父親に勝ってたんです。それでも殴り返せなかったのは、やはり学習性無力感のせいでしょう。たまたま危機に追い込まれてついにブチ切れ、思いがけず勝利してしまったことで、呪縛が解けたんだと思います。
一昨日の悪夢はさほど激しい内容でないにも関わらず、目が醒めてからしばらく恐怖にすくんでいました。ところが昨日の夢は、見ている最中はともかく、起きてからは気分爽快。「勝ったぜ! 自分グッジョブ!」としか思いません。一度でも「ラジカセ」を動かしたことがあるかないかで、こんなにも自分の中での意味づけが違ってくるものなのかと驚きました。たぶん、一昨日の夢を見てがっくりと落ち込んだあたしを救おうとして、無意識が「でもラジカセが動いたことだってあるじゃないか」と過去の勝利経験を夢の形で再生したんだと思います。

まとめ

虐待やDV、いじめなどの被害に遭っていたら、何はともあれ逃げることが最優先です。外野の言うことなんか聞かなくていいから、とにかく逃げるべきです。でも、もしも(←ここ重要)可能ならば、自分を痛めつける者には一矢報いておいた方がいい、と思います。逃げのびた後で「またあのラジカセにつながれたら終わりだ」と恐怖に震えるのはつらいものですが、たった一度でも勝てた経験があれば、それはものすごく大きな助けになりますから。というわけで今回の結論は、「一度でも猫に噛み付いたことのある窮鼠は強い。たとえ『絶対勝てない』と思っても、噛み付くための牙をほんの少しでも研いでおくと役に立つときもあるかもよ」です。少なくとも腕力は絶対に自分を裏切りませんから、「『勝つため』じゃなくて『健康のため』」と自分に嘘をついてでも筋トレをしとくといいんじゃないかな、と思います。

*1:またその自転車を漕いで回る街が、中高生の頃、つまり両親から最もひどい目に遭っていた頃実際に住んでいた場所なんですよ。悪夢だけあって、子ども時代の絶望感と無力感が忠実に再現されたらしいです。

*2:なぜそんな状態から反撃したのかというと、寝込みを襲われたからです。