ぬるい内容だったけど、意義はある - 中学生日記『誰にも言えない』(後編)感想

※以下、性暴力に関係する内容です。フラッシュバックを起こしそうな方はご注意ください。

ぬるい内容だったけど、意義はある

ショッキングな前編に比べ、後編はわりとぬるい内容だったかな。ラジオのDJ、友達、彼女、保健の先生、担任の先生が突如一丸となって主人公を助け支えるという展開なんだけど、ちょっと都合が良すぎたような気がします。サバイバーにとって一番つらい、沈黙を破った後の周囲からの否認(「気のせいだろう」、「何かの間違いだ」など)、事件の矮小化(「たいしたことじゃない」「ただの悪ふざけだろう」など)、被害者側への責任転嫁(「お前が誘ったんだろう」「女みたいな顔だから悪いんだ」など)etc.が一切なくて、「自分から話す気になりさえすれば全て解決! 良かったネ☆」みたいな雰囲気だったので、「これはどこの絵空事ですか」とちょこっと思いました。まあ、そこまでやると話が悲痛になりすぎるとか、今悩んでいるサバイバーが余計に周囲に打ち明けにくくなるとか、前後編計60分では収まらなくなるってこともあるんだろうけどさ。

それから、前編であたしが感じたいくつかの疑問については、こんな感じでした。

  1. 「部室でちんこしごかれてた子のトラウマは?」→フォローなし。ただ、後編では「何をされたかが問題ではなく、本人がどのくらい傷ついているかが問題」という見解が示されているので、「この子はこのケースではそんなに傷つかなかったから無問題」と解釈することが可能です。
  2. 「柏木の扱いは?」→柏木の余罪が明らかになるとか、柏木を告訴するとかの動きは一切なし。ただし、後編の時点ではまだ拓人本人からの告白はなされていないので、周囲も柏木が加害者だと断定できない状態であり、これはこれで仕方がないような気もします。

あと、これは前編についてもそうなんだけど、サバイバーの視聴者もいるんだから、番組の冒頭で「性暴力の描写が含まれます」「フラッシュバック注意」等の警告文を出してもよかったんじゃないかと。番宣やTV欄で予備知識を得てから見る人ばかりじゃないんだしね。

それでも、「男性も性暴力に遭う」「信頼できる人に話すことが大事」「打ち明けられた側が信じることが力になる」というメッセージをきちんと打ち出したNHKの功績は大きいと思います。この番組をきっかけに、ひとりで悩んでいるサバイバーが少しでも減ってくれると嬉しいです。

「誰にも言えない」に対してこんな反応をした人は危険

実は番組自体より、それに対するネット上のさまざまな反応の方が面白かったです。「こういう人が多いから、サバイバーが『誰にも言えな』くて苦しむんだよなー」ってタイプがけっこう多かったなあ。

  • 「こんな内容だと、家族で見られない」「子どもに見せられない内容だ」などと嘆く人
    • フィクション内での性暴力の話題ですら恥ずかしがって避けてしまうような情けない家庭で、もし実際に子どもが性暴力に遭ったら、どう対処するつもりなんでしょう。反射的に「そんなことは話したくない」とか「お前の勘違いだろう」とか言って全力で否認して終わりなんじゃないの。あるいは「家族の恥だから口外するな」と命令して終わりとかさ。
  • 「性暴力」をわざわざ「いたずら」と言い換える人
    • 今回の放送内容では、NHKは一度も「いたずら」という言葉を使っていません。にもかかわらず、「拓人は先輩から『性的いたずら』をされた」などとわざわざ言い換えている人をちらほら見かけました。こういう人って、たとえば誰かにいきなりレンガで顔面を殴られても、「いたずらされた」って笑っていられるんでしょうか。違うでしょ。それは「いたずら」じゃなくて「暴力」でしょ。他人事だと思って問題を矮小化しないでください。
  • 「男性の10人にひとりは性暴力に遭う」というデータを「ありえない」と決め付ける人
    • アンタの目の前の箱は何ですか。検索ぐらいしたらどうですか。1998年12月に「子どもと家族の心と健康」調査委員会が行った日本初の全国調査*1によると、何らかのかたちで性被害を受けたことのある男性は12パーセントだそうですよ。憶測だけで性暴力の存在を過小視する態度は、被害者を苦しめるのみならず、加害者をつけあがらせることにもつながります。「まさか自分の周囲でそんなこと」と呑気に考えている間に、アンタの子どもが、友達が、恋人が強姦されてたりすんのよ。それが実態よ。

蛇足

ぬるい内容だと思ったにも関わらず、これ書いた後で少し寝てたら*2強烈な悪夢を見てうなされました。起きて鏡を見たら、恐怖のあまり顔が土気色になってました。ここでちょこっと書いた通り、あたし自身もサバイバーなので、こんなにマイルドなドラマでもけっこうダメージが大きかったみたいです。性暴力って根が深いわほんと。というわけで、遅ればせながら中学生日記関連のエントリに「フラバ注意」の注意書きをつけてみました。

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*1:日本性科学情報センター企画・編集「『子どもと家族の心と健康』調査報告書」

*2:風邪ひいてたので、薬を飲んで横になってたんです。