『プラトニック・ホーム―いけだたかし短編集』(いけだたかし、メディアファクトリー)感想
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面白いんだけど、ひとつだけひっかかるものが。
『ささめきこと』のいけだたかし氏の初期短編集です。あ、非百合です、ちなみに。青年誌風の作風がまず面白いし、ファミリードラマ多めながらただの「家族ばんざい」「愛情ばんざい」的な嘘くさいノリがないところが魅力的。たとえて言うと、全体的に映画『リトル・ミス・サンシャイン』みたいなトーンなんですよね。あったかいんだけど、心をザリッとひっかく部分もあって、登場人物にはなんとなくダメダメなところがあって。それでもなんとかかんとか生きていて、たまにいいことも、そして怖いこともあったりして。
そんなわけで楽しく読んだのですが、「女子高生親父爆弾」だけは唯一受け付けませんでした。「性暴力被害者の科学」なる団体がなぜか男性に「オヤジ臭いこと100回」で爆発する爆弾を仕掛けるというお話なのですが、性暴力被害/加害の定義というかとらえ方が胡乱すぎて、いちサバイバーとしては読んでいてつらいもんがありました。「胡乱」というのは、具体的には以下の通り。
- あれでは性暴力被害者が単なるテロリストに見えてしまう(『性暴力被害者の科学』が性暴力被害者自身の団体なのかどうかは明言されていませんが、そういう読みが十分に可能な描かれ方なんです)
- 「性暴力加害」を「オヤジ臭いこと」と直結させるというのはミスリードすぎる
- ていうか高校生でも小学生でも女性でも性暴力はふるうのに、これ以上そういう暴力を不可視化するのは勘弁
- 単なる漫画の設定だということはわかるんだけど、「性暴力被害/加害」なるものをおちゃらけた文脈で扱われるのは、いちサバイバーとして見ててしんどい
そんなわけで、この話だけは読み返す気になれません。これさえなければ万人にすすめたところなのに。惜しい。