小児性愛について

※2008年12月23日、一部訂正。
※性虐待に関する話題を含みます。フラッシュバック注意。


言うまでもないことだが、小児性愛者と小児性愛加害者は決してイコールではない。男性異性愛者と男性レイプ犯が置き換え不可能であるのと同じことだ。小児性愛者とは単なる性的嗜好の傾向を意味するに過ぎない。
(引用者中略)
性的衝動があるから危険だというのであれば、女性に対して男性異性愛者やレズビアンは危険であり、女性に対するレイプを予防するために、すべての男性異性愛者やレズビアンを監視し隔離しなければならないことになる。
男性が被害者となる性犯罪に焦点をあてれば、同じことを女性異性愛者に対しても行う必要がある。
この理屈は馬鹿らしいだろうか。
異性愛者であることが問題なのではなく性犯罪を犯すことが問題だというのであれば、それは小児性愛者に対してもまったく同じ図式があてはまる。
小児性愛者であることが問題なのではなく、小児性愛加害者となることが問題なのだと。

小児性愛者であることが問題なのではなく、小児性愛加害者となることが問題」という点に、あたしは完全に同意です。これは要するに、パラフィリア(あえて日本語にするならば、『性欲倒錯(症)』『性嗜好異常』)をどう定義すべきかという問題であって、サイコドクターぶらり旅「私家版・精神医学用語辞典」中にある以下のページの記述と通じるものがあると思います。


最新のアメリカの診断基準であるDSM-IVでの「パラフィリア」の定義はこんな感じ。

基準A:少なくとも6ヶ月間にわたる、1)人間ではない対象物、2)自分自身または相手の苦痛または恥辱、または3)子どもまたは他の同意していない人に関する強烈な性的興奮の空想、性的衝動、または行為の反復。
基準B:行動、性的衝動、または空想は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域の機能における障害を引き起こしている。
(引用者中略)
ともあれ、AとBの基準の両方を満たして初めて「パラフィリア」と診断されることになっているのですね。つまり、性衝動や行動があるだけでは異常とはみなさず、それが苦悩や障害をもたらす場合、初めて異常とみなす、ということなのだけれど、こういう定義になったのには歴史*1がある。

加害者でない小児性愛者は、基準Aしか満たしていません。また、基準Aを満たせば即Bも満たすようになるというわけでもありません。従って、Aを満たした時点で異常と決めつけて排除しようとするのは間違いであり、これはMr_Rancelot氏の主張とも一致します。

DSM-IVの定義について、もう少し引用を続けます。


実は基準Bには穴があるのだ。たとえば次々と幼女の暴行を繰り返している人がいたとして、その人が逮捕もされなければ、全然苦悩すらしていないとすると、その人は基準Bには当てはまらず、パラフィリアじゃない、ということになってしまうのである。
 というわけで、DSMの定義にはかなり不備があるというしかない。
 じゃあ、どういう定義にすればいいかというと、最近の傾向では、「性的暴力行為があれば性倒錯ということにしようか」ということになってきているのですね。
つまり、「実際に子どもを強姦したり、実写の児童ポルノを愛好したりするのは、『児童に対する性的暴力行為だから』性倒錯」ということになってきているわけです。この判断基準だと、たとえば異性愛者男性が成人女性をレイプするのも同様に「性的暴力行為だから性倒錯」ということになるわけで、これは性指向/性嗜好によって判断を左右させない、よりフェアな基準だとあたしは思います。

まとめ

  • 「子どもに対して性的興奮をおぼえる」というだけで異常者とみなして排除・抑圧しようとするのはおかしい。
  • 非難されるべきは「性的暴力行為性的暴力行為を犯す人間」であり、それは行為の主体が小児性愛者であろうと異性愛者・同性愛者であろうと、その他どんなセクシュアリティの持ち主であろうと同じこと。

↑※2008年12月23日一部訂正:「罪を憎んで人を憎まず(暴力行為が悪いんであって暴力行為を犯す人は悪くない、とか)」みたいな話をしてると誤解されない表現だったので一部訂正しました。言いたかったのはそういうことじゃなくて、要するに「『内心で何に興奮するか』で性倒錯の線引きをするんじゃなく、『実際の行為で他者に暴力を与えた/与えている人間かどうか』で判断すべきだ」という話です。混同されがちですけど、そもそも小児性愛者と小児性暴力者(チャイルド・マレスター)はイコールではない(このへんについては、こちらが参考になるかも。→チャイルド・マレスター - Wikipedia)んですし。

補足

漫画などのポルノが小児への性的暴力行為抑制につながるかどうかについては、あたしは不勉強にして知識不足なので、ここでは言及を控えます。今回ちょっと検索してみたらこんな論文を見つけたので、ここからたどって様々なリファレンスを芋蔓式に読んでみようかと思っているところです。

*1:引用者注:1970年以降のゲイ・ムーブメントの中で、「生殖に結びつかなければ倒錯」「本人の苦悩や障害があれば倒錯」などの古い基準が批判され見直されてきたという歴史。