ネットリテラシーやメディアリテラシー以前に、「プチ文盲」な人が多くないか

塾の講師を長年やっていて気づいたのが、文字から情報を取り出して理解することができない子がたくさんいるということ。その能力の低いこと、もはや文盲に近いです。あたしは便宜上こうした子たちを「プチ文盲」*1と呼んでいます。
塾で使うワークブックには、問題だけでなく、「要点のまとめ」や「アドバイス」などのコーナーがあります。そこを見るだけでかんたんに解けてしまう問題も多いです。ところが、「プチ文盲」の生徒たちは、「『要点のまとめ』のここを見て調べながらやってね」と言われてさえもまったく問題が解けません。ちなみにそういう生徒に「まとめ」の部分を音読させてみると、こんな感じ。
生徒「be動詞の疑問文は、be動詞を……ぶ……『ぶんあたま』って何?」
あたし「『ぶんとう』(文頭)」
生徒「……『ぶんとう』に出す。否定文ではbe動詞の後にnotを『よういる』」
あたし「『もちいる』(用いる)」
生徒「……『もちいる』」
で、もちろん、こういう生徒は「文頭」も「用いる」も何のことやらまったくわかっていません。恐ろしいことにこれが中学3年生ぐらいだったりします。こういう子は、地名や人名を「要点のまとめ」から抜き出して書き写すだけの社会の問題ですら満足に解けません。書きことばから情報を取り出すということがおよそできないんです。プチ文盲の子たちは、「話し言葉で、噛んで含めるように説明してもらったこと」しかわからないし、わかろうとしません。自分で何か読んで調べることを嫌い、なんでも人から口頭で情報を得ようとします。「文字」というツール自体にほとんど関心がないのか、聞いたことを自分でメモしておくとか、進んでノートをとるとかいう発想もありません。そしてどんどん落ちこぼれていきます*2
ここまで読んで、「なんだ、またゆとり教育の話か」と思うなかれ。ここからが本題。
実は大人でもうちの生徒みたいな「プチ文盲」は多いんじゃないかとあたしは踏んでいます。何度言っても家電の取説を読まず「わからないから」と家族にビデオ録画を押し付けるおばさん。マニュアルすら読まずにサポセンに意味不明の電話をかけるPCユーザ。自分で検索してたくさんの検索結果を読むことを面倒がり、「○○線の時刻表調べて」などと人に押し付ける自称友人。何度説明してもメモすら取らず「忘れたからまた教えろ」と同じことを百回ぐらい説明させる部下あるいは上司。こういうのは全て、話しことばで噛んで含めるように説明されたことしか理解できない、あるいはしなくても良いと思っている「プチ文盲」だと思います。
今のネットは文字主体のメディアなので、こうしたプチ文盲の人までも否応なしに文字を使ってやりとりするしかなく、そのためにあちこちでいらん摩擦が起こっているんだと思います。ネットリテラシーとかメディアリテラシーとかを取り沙汰する以前に、まず単なるリテラシー(読み書き能力)に致命的に欠ける人もWeb上にはたくさんいるんだと認識した方が良いというのがあたしの結論です。

*1:2006-04-26補足:この「プチ文盲」にはディスレクシアの人は含みません。あたしの言う「プチ文盲」とは、あくまで「平易な話しことばで書かれているもの(漫画のフキダシなど)や興味のあるもの(ゲームの攻略本や新聞のテレビ欄など)は読む。友達同士のメールのやりとりも大好き。だけど、それ以外のややこしい文を読むのは面倒くさい。誰かがぼくの/アタシのために懇切丁寧に噛み砕いて説明してくれて当然☆ミ」と思っているタイプのことです。本物の学習障害とおぼしき生徒も指導したことがありますが、「プチ文盲」のタイプとはかなり違ってました。

*2:しつこくしつこくしつこくしつこく指導すれば、プチ文盲を卒業してガツンと(テストなら1教科50点ぐらい、内申点ならトータル9ぐらい)成績が上がる子もいることはいます。