「結婚以外に同性カップル用の法的制度を作ればいいじゃん」←それ、結局うまくいかなかったって知ってる?

2014年6月5日、日本で初めて同性同士のカップルが婚姻届を出し、不受理となるというニュースがありました。

これらの記事を読まれた方の中に、「同性愛者向けに、結婚と同じ効力がある制度を新たに作ればいい」という趣旨のことを簡単に言っちゃう人が見受けられるのがちょっと気になりました。同じ発想で導入されたシビルユニオンやドメスティックパートナー制度などが、結局、

  1. 実効性がなかった(謳い文句とは違い、法的な不公平は改善されなかった)
  2. マジョリティと違う制度を作ってあてがうこと自体、「分離すれども平等」(separate but equal)という人種差別と同じ

……などの点からうまくいかなかったという事実は無視? うまくいかなかったからこそ、一旦こうした制度を導入した国々(デンマーク、英国、米国など)が、次々同性婚を法制化してるんですけど。

シビルユニオン(や、ドメスティックパートナー制度)は実効性がなかった

米国の政府委員会は、ニュージャージー州でシビルユニオンが導入されてから3年後、実際にどのように運用されているか調べました。結果として、「結婚と同じ法的権利が得られる」という謳い文句は実現されておらず、かえって不公平が助長されていたことがわかったそうです。で、それは別にニュージャージーだけではなかったんですね。以下、NY Daily Newsから引用して訳します。

この研究により、シビルユニオン契約をしたカップルはあらゆる局面で法的な争いに直面しているとわかった。彼らは雇用主から、配偶者のための医療保険や退職手当を拒否された。愛する生涯のパートナーが瀕死の状態でいるとき、病院の職員たちと争わなければならなかった。彼らの多くは、ただ単に法律が保証するとされていたはずの権利や利益を勝ち取るために、弁護士を雇うことを余儀なくされた。

委員会は、この法律は「同性カップルとその子どもたちに対する不公平な扱いの原因となり、また、そのような扱いを助長するものである」と書いている。これは、シビルユニオンによって約束されていたこととはまさに正反対のことであった。

あれやこれやで、シビルユニオンを試したほとんどすべての州が同じ判断に帰結した。コネティカット州高裁は昨年(訳注:2008年)、シビルユニオンは憲法によって保障された法の下の平等に反するという判決を下した。バーモント州では、今年(訳注:2009年)早くに、同性愛者に完全な結婚の権利を与えるよう制度を切り替えることが可決された。ニューハンプシャー州の議員たちは、同じような手だてを研究しているところだ。

It found that couples who obtained civil unions faced legal hassles at every turn. They were denied spousal health and retirement benefits from their employers. They found themselves arguing with hospital officials while their loved one and life partner lay at death's door. Many were forced to hire lawyers simply to win rights and benefits the law was supposed to guarantee.

The law "invites and encourages unequal treatment of same-sex couples and their children," the commission wrote - which is pretty much exactly the opposite of what was promised.

One way or another, almost every other state trying civil unions has reached the same judgment. Connecticut's highest court ruled last year that civil unions violate the constitutional guarantee of equal rights under law. Vermont voted earlier this year to switch to full marriage rights for same-sex couples. Legislators in New Hampshire are studying the same move.

この「みやきち日記」でも、同性カップルの法的権利を保障するはずの制度が実際には役に立たなかった例は過去にいくつか紹介しています。以下にリンクを貼っておきますね。

なお、上記の州のうちニュージャージーでは2013年、コネティカットでは2008年、バーモントとニューハンプシャーでは2009年、オレゴンでは2014年に同性婚が法制化されています。世界に先駆けて1989年に同性同士の登録パートナー制度(registreret partnerskab)を作ったデンマークも、結局は同性同士で結婚できるよう法改正しました。結婚以外の別枠の制度でやれることには限界があったんです。

「分離すれども平等」というのは人種差別と同じ

ここまで読んで、「うまくいかなかったのは新しい制度の認知度が低かったせい、時間がたてば大丈夫」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。でもその前にちょっと考えてみてください。そもそも、なぜわざわざ異性カップルとは別の「新しい制度」を作らなきゃいけないんですか。

以下、Separate but Equal: Why Civil Unions Are Not the Answer - by Danny McGee - Newsvineより引用します。

シビルユニオンの背後にある理屈はこうだ。同性カップルアメリカ国民として異性愛者のカップルと同じ利益を享受する権利がある。ただし、それを「結婚」と呼ばない限りは、だ。権利は持たせてやる、見かけも感じも結婚とよく似ているし基本的には同じものだ、しかし結婚はさせてやらない。なぜなら結婚は異性愛者のものだから。


どこかで似たようなことを聞いた覚えはないか。50年代から60年代のほとんどにかけて、このような考え方は米国で、それも特に南部で非常に人気があった。奴隷制が廃止されて長い時間が経ったのち、ある種のマイノリティのグループには、白人と違う学校に行きさえすれば公教育が受けられるという風にすれば十分と考えられていた。マイノリティに公共交通機関を使わせてやってもよい、彼らが後ろの席に座りさえすれば。これは与えてやる、なぜならおまえたちはアメリカ国民としてみんなと同じ権利に値するのだから。でもあれはだめ、白人のためのものだから。


The theory behind civil unions is that gay couples, as American citizens, deserve to enjoy the same benefits as heterosexual couples, as long as they don't call it "marriage." You can have that, which looks and feels a lot like marriage and is basically the same thing, but you can't have this, because this is for straight people.


Does that sound familiar? In the '50s and throughout most of the '60s, this attitude was very popular in America, and especially in the south. Long after slavery had been abolished, it was thought that it was sufficient to provide access to public education to a certain minority group, as long as they went to different schools. It was okay to allow this group access to public transit, as long as they sat in the back. You can have that, because as American citizens you deserve the same rights as everyone else, but you can't have this, because this is for white people.

同性カップルにも法的庇護が必要」という認識が広まるのはいいことなんですが、そこでいきなり「結婚は異性カップルだけのものだから、あいつら用に別のものを作ろう」という発想に向かっちゃうのは、タテマエだけ平等でも実は平等じゃないんです。「その方がマジョリティ様の賛成が得やすいから」という言い訳はなしですよ。「黒人もレストランで食事したいよね? なら黒人専用席に座らせてあげる、それなら白人様の抵抗も少ないし」というのがいかに欺瞞的だったかは、歴史が証明しています

結婚以外の別制度を新たに作らねばならないのなら、フランスのPACSのように、「異性同士だろうと同性同士だろうと、結婚とPACSのどちらでも好きな方を利用できる」というものにすればいいでしょう。PACSは権利の上では結婚より制限されるけど、その分結婚より自由度が高いという特徴があり、これなら新たに創設する意味があるはず。逆に言うと、「権利の上でまったく同じ」なら、同性カップル専用の制度をわざわざ作る意味などありません。せいぜい「同性カップルは結婚してはならぬ。なぜなら同性カップルだからだ」というトートロジーの信奉者を喜ばせるだけでね。

おわりに

同性婚? 先行事例も知らないし調べてないけど、なんとなくこう思ったからこれでいいだろ☆」みたいな安直な姿勢で人の権利を取り沙汰されるのは、もう本当にうんざりです。すごい人になると、非当事者であるにもかかわらず「同性愛者に結婚などいらん」と断言してたりしますもんね。だからなぜそれを当人以外が勝手に決めていいと思い込んでるんですか。その無自覚な特権意識が諸悪の根源だというのに。

このエントリでつらつらと書いたようなことは、日本語版Wikipediaですら説明されてるんですよ、ちなみに。せめてこれぐらい読めばいいのに。

「こんなことは知らなくて当たり前なのに、素朴な感想も言うなというのか! 表現の自由の侵害だ! 弱者が特権を振りかざしている!」のようにお思いになる方もいらっしゃることでしょう。いえいえ、「言うな」だなんて一言も申し上げませんよ。どうぞお好きに「素朴な感想」を発表なさってください。でも、その発言が(たとえ発話者にはそのつもりがなくても)結果として不公平を維持したり助長したりする働きを持つものであれば、当然批判も受けますよというだけの話です。このエントリも、そうした批判の一例にすぎません。ここまで書いても結局、上記の「同性カップルは結婚してはならぬ。なぜなら同性カップルだからだ」というトートロジーの持ち主にはたぶん届かないし、逆上されるだけだとは思うんですけどね。