「同性婚を認めると少子化が加速」のウソ(追記あり)

概要

同性婚少子化と結びつけて否定したがる人がいる。しかし、同性婚が法制化されている地域や国の出生率を、同性婚不可の地域や国のそれと比較したところで、同性婚少子化を加速させるというエビデンスは見つからない。従って、少子化を根拠に同性婚を否定する意見は、論理性のなさという点で、同性婚を認めたら神が洪水を起こすだの、悪魔が尻の穴から出てくるだのという説と大差ない。

※2014年4月4日追記:堅い話ばっかりでつまらないので、最後にラブラブゲイファミリー映像集をくっつけてみました。合わせてどうぞ。

本論

エイプリルフール前後に起こったこと

2014年のエイプリルフールに、「日本で同性婚法案成立 少子化に大きな加速」というアンチゲイなギャグ(のつもりらしき)ツイートが出回ったようですね。くわしくは以下を。

ギャグではなく大真面目に「同性婚少子化をもたらす」と考えておられる方もいらっしゃるようで、先日のイングランドウェールズでの同性婚法制化にあたり、「人類が滅ぶ」などとして同性婚への反意を表明するツイートも見受けられたようです。くわしくは以下を。

しかし、人口統計調査から見て、「同性婚を認めると少子化が加速(して人類が滅ぶ)」という説はまちがいです。

人口統計からみる、同性婚出生率(米国の例)

同性婚を認めると少子化が加速(して人類が滅ぶ)」という説は、なぜ間違っているのか。それをわかりやすく説明しているWebページがありました。

上記ページは、米国ユタ州での同性婚反対論者が持ち出した「同性婚出生率が下がる」説を数字をもって論破したものです。要旨をまとめると、以下の通りです。

  1. 2000年から2012年で、米国全体の出生率(人口千対)は、14.7から12.6へと2.1減少している
  2. 全6州で同性婚が法制化されている(そして、同性婚成立以前にも同性カップルを保護する制度があった)ニューイングランド地方での出生率低下は、米国全体の低下とほとんど変わらない
  3. しかし、同性婚を認めていないテキサス州での出生率は3.1、ユタ州での出生率は3.9も低下している
  4. よって、同性婚出生率を低下させるというのはウソ

表にするとこんなです。

2000年の出生率(人口千対) 2012年の出生率(人口千対) 出生率増減 同性カップルの法的保護
合衆国全体 14.7 12.6 -2.1 (州による)
コネチカット州 13.0 10.2 -2.8 2008年から同性婚(2005年からシビルユニオン有)
ニューハンプシャー州 12.0 9.3 -2.7 2009年から同性婚(2004年からシビルユニオン有)
バーモント州 10.9 9.3 -1.6 2009年から同性婚(2000年からシビルユニオン有)
マサチューセッツ州 13.2 10.9 -2.3 2004年から同性婚(1999年からシビルユニオン有)
メイン州 10.8 9.6 -1.2 2012年から同性婚(2004年からドメスティックパートナーシップ有)
ロードアイランド州 12.6 10.4 -2.2 2013年から同性婚(2002年からドメスティックパートナーシップ有)
テキサス州 17.8 14.7 -3.1 同性婚不可(一部の市・群にドメスティック・パートナーシップ有)
ユタ州 21.9 18.0 -3.9 同性婚不可

同性婚できないテキサス州ユタ州出生率が、ニューイングランド地方の6州より大きく減っていることがわかります。また、同性婚可能なバーモント州メイン州では全米平均ほど出生率が減っていません。「同性婚出生率が下がる」説では、これらを説明することはできません。

日本と同性婚可能国との出生率を比較する

ここまで読んでなお「そんなのアメリカだけだ! 日本とは関係ない!」とおっしゃる方々も、きっといらっしゃることでしょう。そこで、世界銀行が公表しているデータをもとに、わが愛する日本と他の同性婚可能国の、2000年から2011年の出生率(人口千対)を比較した表も作ってみました。なお、表の中の同性婚可能国は、「なるべく早期に同性婚を法制化した国」から順に選んであります。

2000年の出生率(人口千対) 2011年の出生率(人口千対) 出生率増減 同性カップルの法的保護
日本 9 8 -1 同性婚不可
オランダ 13 11 -2 2001年より同性婚(1998年からドメスティックパートナーシップ有)
ベルギー 11 12 +1 2003年より同性婚(2000年から法的同棲制度あり)
カナダ 11 11 増減なし 2005年より同性婚(州によりドメスティックパートナーシップ等有)
スペイン 10 10 増減なし 2005年より同性婚(1990年代から地域によりシビルユニオン有)

オランダの出生率は減っていますが、ベルギーではむしろ出生率アップ。カナダとスペインは変化なし。一方、同性カップルに何の法的保護もない日本は、もともと少ない出生率がさらに下がり、5ヶ国中最低となっています。これも「同性婚出生率が下がる」説では説明がつきません。

結論

人口統計調査を見る限り、「同性婚を認めたら少子化が加速する」説にはエビデンスがありません。

以下余談

同性愛者が全人口のうち何パーセントを占めるかというのは諸説あって(『同性愛者とは誰か』の定義が難しい上、カミングアウトの問題もあるので正確な数字を出すことは不可能)、これまであたしが見たことのある仮説では最小で2〜3パーセント、最高で約15パーセントぐらいでした。どう考えても異性愛者の方が圧倒的多数なわけですよね。

その圧倒的多数の、異性が好きで異性とセックスして愛する異性パートナーの子を生み育てている異性愛者たちですら人口を維持できるほどの子をなしていないのに、圧倒的少数派たる同性愛者に好きでもない異性と結婚させて好きでもない異性とセックスさせて(意に染まぬセックスを強要するのって、レイプだと思うんだけど)好きでもない異性の子を産ませて育てさせる(まるで家畜みたいにねー)ことで少子化をどうにかできると本気で考えている人がもし存在するのだとしたら、よっぽど頭のお気の毒な方なのでしょうね。

なお、同性愛者は異性婚させなければ子供を持たないはずだという発想も大間違い。たとえばウィリアムズ・インスティテュートの調査(PDF)によれば、米国の125,000組以上の同性カップル世帯のうち約20パーセントが18歳以下の子供と一緒に暮らしていることがわかっています。111,000組以上の同性カップルが、推定170,000人の子供たち(内訳は実子、養子、継子などさまざま)を育てているとのこと。またBBCニュースによると、英国のヒト受精・胚機構の報告では、同国で1996年から2008年の間に体外受精を受けたレズビアンは728名、非配偶者間人工授精を受けたレズビアンは5,211人いるそうです。NOSによれば、オランダでは毎年300人から400人の子供がレズビアンカップルのもとに生まれています。

こうした事実を知らず、調べる気もなく、うかうかと「同性婚少子化につながる、だから反対」とか言っちゃうのは、まず「同性婚は否定されるべき」という結論ありきでものを考えているからでは? 冒頭でちょっと触れた、同性婚を認めたら神が洪水を起こすだの、悪魔が尻の穴から出てくるだのと唱えている人たちと同じで、結論をもっともらしくするために「その人が想像するところの、『一般的に悪とみなされていること』(キリスト教圏なら神罰や悪魔、日本なら少子化)」と結びつけて思考停止してしまっているだけなのでは。あまり知的な態度とは言いがたいように思います。

さらに余談(2014年4月4日追記

堅い話が続いたので、ラブラブゲイファミリーの映像でも貼ってみましょうかね。

ニール・パトリック・ハリス一家。

パートナーのDavid Burtkaさん、そして双子の子供たちと撮った家族写真を集めたもの。ここには入ってないけど、公式Twitterのハロウィン写真も最高にキュートです。


ジリアン・マイケルズ一家。

子供たちのうちひとりは実子(人工授精で出産)、もうひとりは養子です。


ミネソタ州のPaul MelchertさんとJames Zimmermanさん、そして息子たち。

ミネソタ州同性婚法制化前の聴聞会で3歳のエメットくんが大活躍した、あのご一家です。


オーストラリアの Zannさん、Shanさん、そして娘のQuinさん。

Instagramgaybymama on Instagram)の写真の数々もかわいいですよー。

同性婚ってこうした同性カップル世帯の法的権利(相続権や親権など)を守るためのものでもあるのに、「少子化」を持ち出してやめさせようとする意味がわかりません。こういうご家族に向かって「あなたたちの結婚を認めると少子化が加速されます」とか真顔で言えるわけ? ものすごくシュールだわ。