『クージョ』(スティーヴン・キング)読了

CujoCujo
Stephen King

Signet 1982-08-01
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昨日読み終わりました。全体的な感想は、「これって『後で困ることを今困る』というぼのぼのみたいな人たちの悲劇なんだなあ」ということ。クロゼットのお化けに怯えるタッドも、エンプティネスト症候群を恐れるドナも、レッド・ラズベリー・ジンガーズの着色料で大騒ぎする人々も、まだ起こってもいないことに対してヒステリカルな恐怖を抱いているという点ではまるで一緒。

ぼのぼの』のアライグマくんのこの名台詞を教えてあげたいです。


後で困ることをなんで今困るわけ? そんな生き方やっててミジメじゃないわけ? 困るんだったら困ったときだけ困ればいいじゃん

ただし、なかなか「困ったときだけ困る」わけにはいかないのが人の常。もっと言うと、「怖いことが本当に起こったときだけ怖がる」わけにはいかないのが人間ってやつです。スティーヴン・キングはこの作品で、誰にでもあるこうした脳内恐怖が突如具現化して襲いかかってくるという悪夢を描き出してみせたんだと思います。

その「具現化」の凄惨さや容赦のなさについては、今さらあたしが説明するまでもないはず。後半のスプラッタ描写など、「もしこれが漫画化されたら、エライ人たちが『有害有害有害ー!! 規制せよー!!』と叫びながら泡吹いて失神するに違いない」と確信できるほどのむごたらしさです。それでいて、前半のじわじわくる超現実的な恐怖の部分もまた面白いんだよね。クロゼットの毛布の位置がなぜか変わっているところとか、寝ぼけたブレットがつぶやくことばとか。主要モチーフである狂犬病になぞらえるならばこれらはいわば感染期・潜伏期であり、恐怖が静かに中枢神経を浸食していく段階を描いているのだと思います。こうして念入りに外堀が埋めてあるからこそ、キャンバー家前での惨劇がより強烈なものになっているのでは。

難点を挙げるとしたら、展開がかなりスローなところ。「これって3分の1ぐらいの長さの話に縮められるんじゃないの」と途中で何度か思いました。あと、ドナが感じている漠然とした不安は、このド不況の21世紀初頭では共感されにくいのではとも思います。そこさえ除けば、今読んでもじゅうぶんに面白い本です。

余談だけどオーディオブック版は買って失敗でした。男性キャラの声が、どれも「孫に本を読んであげてるおばあさんの声」にしか聞こえないんです。ヴィクやジョーなど大人のキャラだけならまだしも、4歳のタッドまでどこをどう聞いてもおばあさんヴォイス。最初の100ページ分ぐらいまでは聴きながら読んでたんですが、どうにも我慢できなくなり、残りは文字だけで読みました。ステファニー・プラム・シリーズのオーディオブックを担当してるLorelei Kingさん(レンジャーとモレリの声を完璧に使い分ける芸達者よ!)あたりが読んでくれればよかったのになあ。

さて、80年代スティーヴン・キング祭り、次は『シャイニング』いきます!