英紙『デイリーメール』、ゲイカップルをネオナチ風に描いた一コマ漫画で紛糾を呼ぶ

英国の日刊大衆紙『デイリーメール』が、ゲイカップルをネオナチ風に描いた一コマ漫画を掲載して批判を浴びています。
詳細は以下。

この漫画は、「クリスチャンのホテル」の看板があるホテルで、スキンヘッドのマッチョで怖そうなゲイカップルがチェックインしようとしているところを描いたものです。カップルは白人で、2人ともレザーベスト着用。剥き出しの腕はタトゥーだらけです。2人は手をつないでいます。そして左側の男性の右手首には、ハーケンクロイツのタトゥーがあります。

対照的に、ホテルのフロントで働く男性たちはゲイカップルより小柄で、制服をきちんと着用し、当惑の表情を浮かべています。絵の下には、「ねえジョージ、ロマンティックじゃないか? スミス夫夫はブライダル・スイートをご希望なんだって」との台詞があり、これはホテルのフロント男性が、皮肉をこめて同僚に話しかけた言葉ということらしいです。

英国ではつい最近、ダブルルームをゲイカップルに使わせなかったクリスチャンのホテルを訴えていたゲイカップルが勝訴したばかりです。この漫画はおそらくその一件を受けたものなのですが、『ジューイッシュ・クロニクル』紙のライターJennifer Lipmanさんは以下のようにコメントしています。


「この漫画家が何をしたいのかよくわかりませんが、私にはゲイとユダヤ人の両方にとって不必要で、侮辱的なものに見えます。2011年にもなって全国紙に載るとは思っていなかったたぐいのものです」
“I don’t really get where the cartoonist was going with it, but it’s unnecessary, offensive to both gay and Jewish people in my view – and it’s not the sort of thing I expect to see on the pages of a national newspaper in 2011.”

ちなみにWikipediaで見てきたところ、『ジューイッシュ・クロニクル』って「イギリスのユダヤ人社会の80パーセントが読んでいるとされる」新聞なんだそうです。

元記事のコメント欄には「どこにでもいるマッチョな熊ゲイに見えるし、問題ないのでは」とか、「ゲイはかつて女々しく描写されすぎて怒り、今度は男らしく描写されすぎて怒っている。私たちは何にでも侮辱されたと感じるのをやめるべきだ」なんて意見もあります。でもね。ナチスってかつて同性愛者を虐殺してたんですよ。ネオナチだってゲイを目の敵にして、世界じゅうのプライド・イベントでゲイに暴力をふるってるんですよ。ゲイキャラをそんなものとオーバーラップさせて、「迷惑な存在」「ホテルマンは被害者」風に描くのって、無理筋にもほどがあるわ。クリスチャンが裁判で負けたのが、そんなに悔しい?

コメント欄のこちらの意見が、まことに当を得ていると思いました。


従って、この表現は、アンチゲイな考え方を崩さないクリスチャンはちゃんとした外見だから正当性があり、対照的にゲイたちはそうでないと主張しているのだ。ただの不適切な関連づけによって、あるものの性質が本質的に他のものの性質とイコールであるかのように主張しているのだから、この表現は明らかに関連づけによる誤謬である。ゆえに説得力がないことは明白だ。
最新のニュースの文脈を説明するにあたり、この漫画は、同性愛者は同性愛者であるというだけで何か本質的に間違っていて、不快で、破壊的で、好ましくないものがあり、高圧的で失礼な態度でおしかけてきて滞在するとほのめかしているのだ。
It is averred by the presentation, therefore, that the position of Christians who hold anti-gay views has validity because they appear respectable and, by contrast, the gay persons do not. This is clear association fallacy as it asserts that the qualities of one thing are inherently qualities of another, merely by an irrelevant association – thus the deduction is demonstrably invalid.
Contextualised with the current news, it implies that there is something inherently wrong, distasteful, disruptive and indecent about people who are gay and that they impose themselves on others in an overbearing, disrespectful way – just by being themselves.

あとひとつ思ったのは、この漫画って、マイノリティに差別を指摘されると「お前らこそが差別者」と嘲笑し出すという、マジョリティにありがちな態度を反映してはいないかということです。史実から見ても現状から見ても、ナチスは同性愛者を差別・迫害する側の人間です。つまり、「ホテルのフロントがスキンヘッドで、ただのゲイカップル客に向かって高圧的な態度をとっている」という描写にした方が、まだ現実に近いんですよ。それをひっくり返してゲイの方が悪漢であるかのように描写するあたりが、日本のネット界隈でも頻繁に見かけるマジョリティの逆ギレ&居直りに近いものがあるように、あたしには思えます。
なおPink Newsは現在、『デイリー・メール』にコメントを求めているとのことです。

単語・語句など

単語・語句 意味
aver 断言する
inherentlly 本来的に、内在的に
irrelevant 不適切な、筋違いの、見当違いの、的外れな、関連性のない
deduction 推理、推論、演繹
demonstrably (容易に証明できるほど)明白に、証明[論証]によって、明らかに
invalid 薄弱な、価値のない、根拠[説得力]のない、論理的に矛盾した
contextualize …の情況[文脈]を説明する、情況[文脈]にあてはめる
overbearing いばりくさる、横柄な、高圧的な、高慢な、支配的な
disrespectful 失礼な、軽視した
impose oneself on O (人)のところにおしかけて同席[滞在]する