『じりラブ』(うたぐわ、集英社)感想

じりラブじりラブ

集英社 2010-02-26
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愛読しているゲイブログ「♂♂ゲイです、ほぼ夫婦です」が、大幅な加筆再構成を経てコミックエッセイ本になりました。もっのすごく面白かったです。ブログと同じくおそろしく濃い笑いと涙、そしてキラリと光る鋭い洞察に終始ツボを押されまくりでした。漫画のみならず書き下ろしのエッセイも、世間の誤解をやわらかく解いていく感じで、とても楽しく読みました。

個人的には、筆者うたぐわさんのオープンなゲイとしてのサラリーマン生活を綴った部分がとても好きです。ノンケの皆さまのカムアウト時の反応の変化とか、上司Fさんの侠気とか、会社でのじょし同士の会話とか、どれも感心したり横隔膜が痛くなるほど笑わされたりで大変でした。一番インパクトがあったのは、ゲイ嫌いのNさんのエピソード。ヘタレなクロゼット・レズビアンの自分としては、Nさんに拒絶されて、


あの野郎ォ〜〜〜ぜってー心開かしてやるっ

と燃え上がるうたぐわさんの姿(p. 100)にまず目ウロコでした。そうか、「拒絶されたら嫌だからクロゼット」という選択肢以外に、「ぜってー心開かしてやるっ」という選択肢もあったのね。その後本当に心を開かせてしまう根気とテクニックに至ってはもう感動もんです。また、さらに後、とあることからゲイ嫌いが復活してしまったNさんとの対話のエピソードには、「ゲイのカミングアウト」という枠を越えた大きなテーマがあり、いっつも同性愛者の側のことばっかり考えてしまいがちな自分としてはぐっと言葉に詰まってしまいました。具体的にはここんとこ(pp. 118 - 119)。


僕だって、自分がゲイであることを受け入れられなくてあんなに苦しんだ。(引用者中略)ノンケだって、自分のことを受け入れて前を向くのってすごく大変なのかも
いままでゲイのことをノンケにわかってもらおうとばかりしてきたけど 僕はノンケのことをちゃんとわかろうとしたことってあっただろうか

もう読んでて耳が痛い痛い。このエピソードひとつ見てもわかる通り、これって決して「ゲイについて」や「ゲイの立場」だけを語った本ではないんですね。もっとスタンスを広く取って、「ゲイであるうたぐわさんと、その周りの人々」について愛情たっぷりに書かれた本なんです。この懐の広さが、とてもよかったです。

なお、この本のギャグのインパクトについては元ブログの「♂♂ゲイです、ほぼ夫婦です」を見ていただくのがいちばん早いかと。ちなみにあたしは「南米の黒い悪魔」ことマヌーさん関係のネタをこよなく愛しております。まだ書籍化されていない漫画もたくさんあるし、2冊目も出るといいのになあ。