プエルトリコで19歳ゲイ男性バラバラ殺人の容疑者が逮捕される。容疑者:「男だとわかったのでカッとなって殺した」

2009年11月13日(金)、プエルトリコの路上で、19歳のゲイ男性Jorge Steven Lopez Mercadoさんがバラバラ死体で発見されるという事件がありました。死体は頭と手足を切断され、一部を焼かれていたそうです*1。警察は11月17日(火)、容疑者のJuan A Martinez Matos(26)を逮捕。Hector Agosto署長は、これがMercadoさんの性的指向を理由として引き起こされた殺人かどうか調査中であると語っていました*2。その容疑者Matosが、犯行の理由としていわゆる「ゲイ・パニック・ディフェンス」を使っているらしいというニュース。

ゲイ・パニック・ディフェンスとはゲイに対する暴力犯罪の容疑者がよく使う「ゲイに言い寄られたのでカッとなってやった」「女だと思っていたら男だったのでカッとなって(略)」という理屈です。つまり、ゲイに近づかれたパニックのあまり心神喪失状態に陥ったのだとして責任を軽減しようとする戦略。マシュー・シェパード事件の時にも使われました。18歳のマシューをトラックに乗せ、お金を奪い、357マグナム拳銃で何度も殴り、人里離れた郊外まで連れて行って柵に縛り付け、拳銃でさらに少なくとも18回殴り、氷点下の気温の中そのまま置き去りにするという行為が、「ゲイに言い寄られたための心神喪失状態によるもの」なんですってよ。もっとも、裁判官がこの主張を退けた後、犯人たちはがらりと主張を変えて「強盗が目的だった」と言い出したりしてたようですけど。

Pinknewsの記事にもありますが、ゲイ・パニック・ディフェンスはトランスに対する暴力犯罪についてもよく使われます。でも、なぜかヘテロセクシュアル・パニック・ディフェンスっていうのはないんですね。つまり、レズビアンヘテロ男性を殺し「ヘテロに口説かれて心神喪失に陥った」と主張したり、ゲイが女性をぶちのめして「男だと思ったら女だったので精神錯乱をきたした」と申し開きをすることはめったにないわけ。不思議ですね。Pinknewsではこうしたゲイ・パニック・ディフェンスについて、


この弁護がもっとも頻繁に使われるのはアメリカ合衆国で、特にホモフォビアが広く行き渡っている地域でよく使われる。
The defence is most frequently used in the United States, particularly in areas where homophobia is widespread.
と説明しています。

前置きが長くなりましたが、上記のプエルトリコでのMercadoさんバラバラ殺人の容疑者Matosも、このゲイ・パニック・ディフェンスを使っているらしいんですよ。警察の発表では、Matos容疑者は女装していた被害者を赤線地区で広い、彼が男だと気づいて殺したとのこと。El Nuevo Dia紙によると、Matos容疑者はLopez Mercadoさんを家に連れて行ったものの、「(申し立てによると)性的な行為を進めてからLopezが男性だと気づき、激怒したためにあのようなことをした」となっているそうです。

でもねえ、男だと気づいて激怒したからと言って、そこで人の頭と手足を切り落とし、死体に火をつけて、さらに路上に捨てるなんて念の入ったことをする言い訳にはならなくない?

以下、Pink Newsのコメント欄より抜粋。


死体の切断は怒りによる突発的行動の範疇を超えています。
The mutilation of the body goes way beyond a sudden act of anger.


ホモフォーブは犠牲者のせいにするのが大好きだし、このゲイ・パニックという嘘はばかげていて悪質だ
the homophobes love to blame the victim and this lie of gay panic is a stupid evil idea


写真の男の子(訳注:こちらの写真のこと)はとてもきゃしゃで傷つきやすそうに見えるし、いったい誰が彼を脅威とみなすわけ? これは女の子と行為をしているつもりが実は違ったと気づいて屈辱感を覚え、攻撃に転じたストレート男性でしょ。ディフェンス(防御)ではなくて、不快感の問題。彼はただ歩み去りさえすればよかったのに。
The boy in that picture looks so fragile and vulnerable how could anyone see him as a threat? This is a straight guy who thinks he's on for it with a girl, then finds out it isn't a girl and feels humiliated and lashes out. That's not a defence. It's revolting. All he had to do was walk away.

そう、ディフェンスって言っても、いったい何から何を防御するつもりなのかと思うんですよね。身長2メートル体重100kgの大男に力ずくでレイプされそうになったとでもいうなら、暴力をもって対抗するのはたしかに「防御」でしょう。でも、きゃしゃな女装少年を家に連れ込み、男だとわかったらバラバラ殺人っていうのが、果たして防御のひとことで正当化され得るものなんでしょうか。

なお、プエルトリコで行われたMercadoさんを追悼するイベントの様子はこちら↓。

この集まりでは「歌姫への道」(Road to Diva)というコンテストが「"Stephen Miller"(Mercadoさんがかつて自分を呼んでいた名前)に捧ぐ」として行われ、Mercadoさんの子供の頃からの友人などが集まって彼を偲んだとのこと。オープニングでは故人のためにベット・ミドラーの「Wind Beneath My Wings」が歌われたそうですよ。

涙出た。(蛇足ながら、「Wind Beneath My Wings」の歌詞はこんなです)

単語・語句など

単語・語句 意味
red light district 赤線地区
revolt 不快感を覚える
reminiscent …を偲ばせる、思い出させる