『ダメな議論』(飯田泰之、ちくま新書)感想

ダメな議論―論理思考で見抜くダメな議論―論理思考で見抜く
飯田 泰之

筑摩書房 2006-11
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「さまざまな言説の中から、”ダメな議論”――「誤ったもの」「無用なもの」「有害なもの」を見抜」(p9)き、より正しく有用な理解にたどり着くための手法を述べた本です。第2章「ダメな議論に『気づく』ために」で挙げられている5つのチェックポイントがとても興味深かったので、ここに簡単にまとめてみます。

ダメな議論に「気づく」ための5つのチェックポイント

  1. 定義の誤解・失敗はないか
    • 例:「超能力」の定義を明らかにしないまま「超能力は存在するか」を論じても無意味
      • 超能力を「物理学の法則に反する現象を人為的に引き起こす力」と定義するならば、存在の証明は非常に困難
      • 超能力を「既存の物理学では説明できない現象を起こす力」と定義するならば、論理的には存在してもおかしくない可能性がある
      • 定義しないままなんとなく論じても、有用な結論は得られない
  2. 無内容または反証不可能な言説
    • 例:「『ゆとり教育』と『生きる力』を主眼において教育行政を進めるべき」という主張は、無内容かつ反証不可能
      • ゆとり教育」「生きる力」には明確な定義も具体的目標もない。従って、政策がうまく行ったかどうかを検証することが不可能であり、誰かが責任をとらされることもない
      • 無内容で反証不可能な主張は、有害な政策や誤った理解をなんとなく人に信じ込ませるツールとして機能するので、警戒が必要
  3. 難解な理論の不安定な結論
    • 新しい理論や難解な理論が、無条件で全ての状況を説明できるわけではない
    • 理論の前提部分がぼかされている場合、その書き手が理論の適用可能性に自信がないと解釈できる
  4. 単純なデータ観察で否定されないか
    • 例:「近年、日本の少年犯罪は増加した」という主張
      • 警察庁刑事局刑事企画課「犯罪統計書」のデータによって簡単に否定されてしまう
  5. 比喩と例話に支えられた主張
    • 例:「ある産業は通産省の保護のおかげで成長した」という例話をもとにして、「だから官僚による経済指導は有効である」とする主張
      • 官庁の指導や保護を受けても成長しなかった産業はある。逆に、官庁に敵視されつも成長した産業もある

これらのチェックポイントは「無内容な主張」や「明らかに間違っている言説」を見抜く手段として非常に有効だと思います。これを使って現政権の「美しい国」発言を見直してみたりすると大変面白いですね。明確な定義もなく、無内容で、反証不可能で、誰も責任をとるつもりがない言説だということがよくわかります。自分の主張が「ダメな議論」に陥らないよう、時々この本を読み返してみたいと思います。