ジョディ・フォスターのカミングアウトについて、今さらながら雑感



1月20日に日本語字幕つきで放映された、2013年度ゴールデングローブ賞授賞式(の録画)をたった今見終わったところです。お目当てはもちろん、ジョディ・フォスターのカミングアウト。編集でカットされていたらどうしようと思いましたが、全部きちんと放送されていてほっとしました。字幕の訳文もまっとうで、わかりやすかったと思います。

さて、母国語たる日本語で改めてこの名スピーチを復習してから思ったことをざっと書いてみます。

この1月14日のスピーチ以降、日本でも海外でも、「もっと早くカミングアウトするべきだったのでは」とか、逆に「なぜ今さら(≒ここまで来たらもう黙っとけ)」とかいう反応をたくさん見かけました。前者は主に、「先人が苦労してカミングアウトして、いわば地ならしが済んでから言うなんてズルイ」とか、「もっと早く言ってくれればLGBTコミュニティのためになったのに!」みたいなことを言ってる人が目立っていたように思います。で、後者は、「もうみんな知ってるんだし言わなくてもいいじゃん」的な意見が多かったみたい。

だけどさ。これって全部、なんか的外れだと思うのよ。

カミングアウトするもしないも、そしてするとしたらいつするのかも、100パーセント当人の自由でしょ。だいたいシスヘテロはカミングアウトしなくたってまったく困らずに生きているのに、どうして同性愛者だけ自分の私生活について「喋れ」だの「喋るな」だの「喋る時期はいついつにすべき」だのと相反する注文を四方八方から突きつけられなきゃいけないわけ。注文をつける人たち(シスヘテロだろうとだろうとLGBTだろうと)は、いったい何の権限があってそんなことができると思ってるわけ。

「もっと早く言うべきだった」派の人へ。言ったらどんな目に遭ったかわかっていらっしゃるのでしょうか。2010年にカミングアウトしたカントリー歌手のシェリー・ライトは、カミングアウトした途端に仕事を干されまくったと言ってますよ。具体的には、CDを出してもらえなくなったり、イベントから干されたり、それまですごく感謝されてた軍隊の慰問ボランティアのお仕事がまったく来なくなったりしたのだそうです。歌手でなく役者はどうかというと、これも2010年、コリン・ファースが「同性愛者の役者には見えない障壁があり、役がもらえなくなる」(大意)という指摘をしてますね。

2010年でさえ、これなのよ。もっと偏見がっちがちだった1960年代から映画界の第一線で働いてきたジョディに、いったい誰が「そのキャリアをドブに捨てるリスクを冒してカミングアウトしろ」なんて言えたわけ? オスカーを2度も受賞した大女優が受けるであろう損失を、アナタが補填できたとでも言うわけ?

でさ、このへんのことについては、ジョディの今回のスピーチの、以下の部分に端的に表れてると思うんですよ。肚を据えてるんですよ、この人は。(以下、日本語字幕から引用します)。


1つの時代が終わり 何かが始まるように感じる
怖いけど ワクワクするわ

私は もう舞台に上がらないかもしれない
それが変化というものよ
でもストーリーを語り 人を感動させる仕事は続けるわ
ただストーリーの語り方を変えるだけ
3000もの映画館では公開されず
少人数に捧げるような静かなものかもしれない
でも私はジョディ・フォスターであり続けます
人々に見られて 理解されていたい

この部分をして「ジョディ・フォスター、女優引退か!?」と受け取った人もいるみたいだけど、あたしはそうじゃないと思うのね。これは、「(はっきりカミングアウトすることで)もうハリウッドのメインストリームの仕事は来なくなるかもしれない」「女優業でなく、監督業で小さな仕事をしていくことになるかもしれない」「でもショウビズの仕事はやめません」という宣言でしょう。このくだりの根底にある覚悟の重さを読み取らずに「もっと早く言え」もないもんだよ。

それから、「今さら言わなくても」派の方々へ。あのねえ、カミングアウトしないでいるっていうのは、ただ単に黙っているってことじゃないのよ。「アナタもワタシもみんな異性愛者」と思い込んで疑いもしない方々のガラスのハートのお守りをしてあげるために、年中無休で能動的にウソをつき続けてあげるってことなの。いちいちパニックされたり激怒されたり恐怖にうち震えられたりしないように、「彼氏(彼女)ですか? いないんですよ」とか、「結婚? ご縁がなくて」とか、完爾と笑って答えてあげ続けるってことなの。それってすごくストレスフルなことなの。

ちなみに、ボディランゲージの専門家にしてFBIトレーナーのジャニーン・ドライヴァーさんによると、ウソをついているとき人間にはこんなことが起こるそうです。(出典:『FBIトレーナーが教える 相手のウソを99%見抜く方法』. 宝島社. p. 36.)

  • 有害なストレス・ホルモンであるコルチゾールの分泌が増える
  • ネガティブな感情が高まる
  • 思考が妨げられる

ずっとこの状態でいつづけるのは、とてもとてもしんどいことです。「もうやめじゃあああああ!!」と重荷を下ろす決意を、誰がいつしようと、そんなの自由でしょう。ましてや、「今まで重荷を背負ってたんだし、これからも背負えば?」と鼻ほじりながら言われる筋合いなんて、ないわ。

もっとも、ジョディ・フォスターの場合は、2007年に公の場で当時のパートナーを「つらいときも至福のときも寄り添ってくれた私の美しいシドニー」と形容したことから、その時点でもうカミングアウトは済んでいると考える人もいるみたいですね。それを根拠に「何を今さら」と発言した人も、きっといることでしょう。けれども、こちらにも書いた通り、2007年のこの発言でさえ、カミングアウトと解釈するかどうかは人によって分かれています。だからこそ、今回のゴールデングローブ賞で、ジョディがわざわざ「既に1000年前に、いや石器時代にカミングアウトしています」と冗談交じりに改めて念押しする必要があったんじゃないの? そこは無視しちゃいかんと思うのよ。

最後に、今回のジョディのスピーチについてもっとも正鵠を射ていると思ったブログ記事を紹介しておきます。こちらです。

少しだけ訳してみます。


私は、どんな人でも自分の決めたときにカミングアウトすることが許されてしかるべきだと固く信じています。つまりカミングアウトというのは、ちょっとした適切なきっかけがあって、それでいてその人が準備ができたときにだけするものです。だから、どんな人のカミングアウトだって、それまでに要した時間の長さとは関係なく重要で、祝福すべきものなんです。
I believe firmly that every person should be allowed to come out at his or her own time, perhaps with a little appropriate prodding, but only when ready. And so each person who comes out counts, no matter how long it takes, and should be celebrated.


彼女が世の中のエレンたち、メリッサたち、マルチナたちを攻撃しようとしていただなんて少しも思いません。そうするかわりに彼女は、自分なりのやり方で、このとてもパブリックな瞬間に至る道を説明していたのです。その道が3歳にしてスポットライトの中で始まったものであり、単に彼女の注意をひきたかったという理由から合衆国大統領を銃撃した頭のおかしい男(訳注:レーガン大統領暗殺未遂事件のジョン・ヒンクリーのこと)に巻き込まれた道なのだということを忘れないで。あの用心深い性格や、プライバシーを強調することなどが、彼女のほかならぬコアの部分の基礎石であるとわかるでしょう。さらには、彼女が50歳――スピーチ中で繰り返しそう言ってましたよね――であり、「ホット・トピック」(訳注:ポップな衣料品などを扱うネットショップ)で赤ちゃん人形用のレインボーフラッグTシャツが売られていなかった世代の人だということも忘れてはいけません。
I do not believe she was swiping at the Ellens or Melissas or Martinas of the world in the least. Instead, in her own way, she was explaining her own path towards this very public moment. A path that we should not forget began in the spotlight at the age of 3 and involved a madman with a gun who shot the President of the United States just to get her attention. Her guarded nature, her insistence on privacy, you can understand why those would be the bedrock of her very core. And, let us also not forget, that at 50 - that age she repeatedly told us she is – she comes from a different generation where baby doll rainbow flag T-shirts weren’t sold at Hot Topic.

上記引用部以外も一字一句同意でした。筆者ドロシーさんと同じく、ジョディ・フォスターこそ"the brave one"で、あのスピーチは完璧だったとあたしは思っています。