カナダのトランス女性の終身囚、連邦矯正局に性別適合手術を要求

カナダの男子刑務所で終身刑に処せられているトランス女性のKatherine Anne Johnsonさんが、「性別適合手術を認め、かつ費用を負担してほしい」と連邦矯正局に要求しているというニュース。

この女性には多くの犯罪歴があり、2007年に、ルームメイトを野球のバットで撲殺したかどで終身刑となりました。生まれたときから性自認は女性で、1979年に睾丸除去手術を受けているそうです。彼女はまた、6回もペニスを取ろうと試みたことがあるとのこと。1983年にはカミソリの刃でペニスを切ったものの、失血で意識不明になっている間に再接着手術を施されてしまったんだそうです。この1件で神経が損傷されたため、Johnsonさんの男性器は勃起することができません。Fraser Valley男子刑務所に入所して以来、彼女は他の服役囚から何度もレイプされたり怪我させられたりしており、ペニス除去手術を受けて女子刑務所に移りたいと希望しています。

法廷の書類では、Johnsonさんは女性として扱われています。が、刑務所の書類では、彼女はペニスがあるのだから男子刑務所にいるべきであるとされており、性別適合手術についていつまでに決定するかという期限も明記されていないとのこと。Johnsonさんは連邦矯正局のせいで手術が遅れているとし、今回、裁判を起こすこととなりました。

ちなみに彼女がこれまでに刑務所内で受けた暴力は、たとえばこんなです。

  • 「ファッキン・ドラァグ・クィーン」と呼ばれて殴られる
  • トイレで喉にナイフを突きつけられる
  • 2人がかりで床に投げ倒され、オーラル・セックスを要求される
  • 空き缶の縁で胸を切りつけられる

もちろん、彼女が受けた暴力はこれだけではありません。以下、本人の弁。


「殺されたりレイプされたりすることから身を守るため、刑務所の男性たちと進んでセックスすることを強いられてきました。私は男性の近くにいるのが怖いです」
"I have been forced to go along with having sex with men in prison for protection to avoid being killed or raped by other men. I am terrified of being around men,"

現在彼女は食事もシャワーもあきらめて1日のほとんどを独房に閉じこもっているそうです。

人によってものすごく意見が割れそうな1件ですね。日本だったら絶対に「人を殺したんだから自業自得」「レイプされるのも罰のうち」「手術したけりゃ自腹でやれ、俺たちの税金をこんなやつのわがままに使うな」みたいなバッシングを始める人が出てきそう。いや、英語圏でも似たような意見の人はいっぱいいるみたいですけどね、timescolonist.comのコメント欄を見てると。

でもあたしは、Johnsonさんの性別適合手術を認めるか、さもなくば今のままで「女性」と認めて女子刑務所に移すべきだと思います。どうしてもどうしてもこのまま男子刑務所に収容せねばならない(あたしにはその理由が理解できませんが)としても、最低でも彼女が安全に食事やシャワーを確保できるような配慮をするべきではないでしょうか。このへんでちょっと触れましたが、アメリカなんかではゲイ男性の受刑者を保護し、秩序を維持するために他の受刑者から隔離することを認めているそうですし、それと同じ理屈でなんとかトランス女性の身の安全を守ることはできないのか、と思います。

いくら殺人罪を犯したとしても、文明国の刑法には「生涯殴られレイプされ続ける刑に処す」なんて規定はないはずです。法を守れというのなら、犯罪者を罰する側だって当然、法の範囲内での刑罰だけを与える義務があるはず。あと、お金の問題に関して言うと、トランスを貧困に追い込みがちな不平等な社会構造(参考:Bias in the Workplace: Consistent Evidence of Sexual Orientation and Gender Identity Discrimination(PDF))を無視して「お前の金で勝手に手術しろ」とだけ叫ぶのはズルいと思いますね。

最後に、Womanist Musingsの記事から、個人的にたいへん共感した部分を引用しておきます。


Johnsonさんは70年代後半以来女性として生きてきたのであり、彼女を男性と一緒に収監するのは残酷で異常な処罰です。私たちは、一旦囚人となった人に対し、犯罪だけがその人の全存在を構成していると思い込んですぐに彼らの人権を軽視してしまう傾向にあります。私たちがほとんど例外なく「他者」だとみなすようなアイデンティティを持つ人が相手なら、特にそうです。
Ms. Johnson has lived as a woman since the late seventies and to house her with men is cruel and unusual punishment. Once someone becomes imprisoned we have a tendency to believe that their crime constitutes the totality of their being and therefore we are quick to disregard their human rights. This is especially true when a person has an identity that we have almost universally decided to “other”.


刑罰は決してレイプや、医療拒否を意味するべきではありません。私たちは、道義的立場にもとづき、犯罪者を一般社会から隔離します。しかしその際に、犯罪者の人間性を無視し、彼らを好き勝手に処分してもよい存在として扱うのであれば、その道義は激しく評価を落とすことになります。Johnsonさんが必要な治療を受け、他のトランス女性も誰もこのような明らかに危険で疎外された環境にさらされないことを望みます。

Punishment should never mean rape, or a denial of medical services. We have separated criminals from general society because we believe that we stand in a position of moral superiority, however this notion is severely degraded if we in turn treat them as disposable bodies with no regard to their humanity. It is my hope that Ms.Johnson receive the care that she needs and that no other trans woman be subjected to such clearly dangerous and alienating conditions.

単語・語句など

単語・語句 意味
configuration 形状
penitentiary (米国の州・カナダの)(重罪)刑務所
degrade …の対面を傷つける、品位[評価]を落とす、(…の質・価値を)下落させる
humanity 人間性
with no regard to O …を無視して、顧みずに
culpable 非難される、とがむべき、有罪の