テキサス州のレストランでキスをしたゲイ客が排除される→警察「同性同士のキスは違法だから排除可」→警察「すみませんやっぱ間違ってました」(今ここ)

1. テキサス州のレストランで、ゲイの客が排除される

時系列で起こったことを書くと、こんな感じです。

  1. 2009年6月29日、テキサス州エルパソのレストラン「Chico's Tacos」で、5人のゲイ客のグループが食事を注文していた
  2. うち2人が唇へのキスをしたところ、警備員が5人を罵り、追い出そうとした
    • 警備員の言い分:「ここでオカマなこと(faggot stuff)をやらせておくわけにはいかない」
  3. 5人は警察に通報するが、警察は警備員側に味方する
  4. 警察官の言い分:「同性同士が公衆の面前でキスをするのは違法」
    • しかし、テキサス州ソドミー法(同性愛行為を禁ずる法律)は、2003年に合衆国最高裁によって覆されている
    • おまけに同年エルパソ市は、公にサービスを提供する企業で職員が性的指向に基づく差別をすることを禁ずる条例を制定している

2. ゲイ・コミュニティから批判の声が上がる

50人ほどが店の前に立ち、プラカードを掲げて抗議行動を行っています。写真はこちら

3. エルパソ市警、警官のしたことを正当化


新聞の取材に対し、エルパソ市警のCarlos Carrillo刑事は、どのようなビジネスも「誰であれ望まない客を断る権利」があるとして警官達の行動を擁護した。
El Paso Police Detective Carlos Carrillo defended the officers actions, telling the paper that every business has "the right to refuse service to whoever they don't want there."
でも、くどいようだけど2003年に、「公にサービスを提供する企業で、職員が性的指向に基づく差別をすること」を禁ずる条例ができてるんですよエルパソ市では。しかも、テキサスACLUのLisa Graybillさんによると、


2001年の合衆国最高裁判決は、公共の場では差別のみにもとづいてサービス提供を断ってはならず、客を追い出すには道理に合った根拠がなければならないとしている
a 2001 U.S. Supreme Court case determined that places of public accommodation cannot refuse to serve someone based purely on discrimination and must establish a reasonable basis for turning someone away.
のだそうで、そういう意味でもこの発言はおかしいと批判されています。

4. 警備会社の言い分

7月10日付で、警備会社の総支配人Robert Gamboa氏が声明文(全文のpdfはこちら)を発表しています。以下、要約。

  1. ゲイ客は5人でなく8人いた
  2. うち2人がキスを始め、さらにその他のわいせつな行為に及ぼうとした
  3. 他のゲイが通路をバレリーナのように踊り始めたとき、初めて警備員が近づいて、静かにしてほしい、でないと出て行ってくれるようにお願いしなければならない、と告げた
  4. ゲイ客は出て行けと言われてはいないし、サービスを断られてもいない
  5. ゲイたちは酔っぱらっていたために騒動を起こし、大衆の同情を得ようとして差別だと訴えたのだ

El Paso Timesによると、ゲイ客のひとりだったDiaz de Leonさんはこれらの言い分に唖然としているそうです。彼は、誰も踊り出してもいなければグループの人数は5人だったと述べ、「警備会社はむちゃくちゃだ」と語っています。

ちなみにこのレストランChico's TacosのオーナーBernie Mora氏はTV局の取材に対し、同社が提供するのは差別ではなくタコスであり、創業以来56年間にわたってどのような客も歓迎していると述べているとのこと。

5. エルパソ市警、前言撤回(でも謝罪せず)

7月11日付で、エルパソ市警のGreg Allen署長が、エルパソ市警の職員がメディアに対して言ったことを「訂正し明らかにする」声明文を発表したというニュースです。この声明文(全文のpdfはこちら)では、これまでに警察職員によってなされた言説は「法を不正確に引用していた」とされ、警察には反差別条例を守る責任があると述べられています。

この声明に関しては、Box Turtle Bulletinのコメント欄が印象的でした。


この声明は生ぬるくて、謝罪にすらなっていない。
「私たちは不正確でした」と言っているだけで、「必要なときに役に立てずに申し訳ありませんでした」とは言っていない。
The statement was tepid and did not even apologize.
It said “we were incorrect”, not “We’re sorry we weren’t there when you needed us.”


これだから自分は高校を卒業してすぐ、どんな方法でもいいからなんとかしてエルパソを出ることにしたんだ。エルパソはテキサスの数少ない青い(民主党の)エリアのひとつだとは言え、同性愛者にとってはまだ安心だと感じられる場所じゃない。
This is why I found a way, any way, to move out of El Paso as soon as I could after high school. Even though El Paso is one of the few blue (democrat) areas in Texas, it still doesn’t feel safe for gays and lesbians.

6. 感想など

いくら法を整備しようと、裁判で画期的な判決が出ようと、肝心の法の執行機関がそれをわかっていないようではどうしようもないんだな、とよくわかりました。とりあえず警察が非を認めたのは一歩前進ですが、明確な謝罪の言葉がないところにもやもやします。警備会社の言ってることもなんか変ですしね。声明文ではあたかも警備員がゲイたちに丁寧に頼んだかのような言い回しが使われていますが、その一方で「警備員はスペイン語でアンチゲイな罵り言葉を吐いていた」という情報もあったりするんですよ。先日、ケンタッキー州マクドナルドの従業員が客を「オカマ野郎」と罵った事件では、マクドナルド社は苦情を無視しようとしたあげく、結局4000ドルの賠償金を支払うはめになってましたが、今回の事件も今後またなんか進展があるかもしれませんね。

単語・語句など

単語・語句 意味
lewd みだらな、わいせつな
tepid 生ぬるい