南アフリカではレズビアンが「矯正のための」レイプを恐れる

※性暴力に関する話題を含みます。フラッシュバック注意。

南アフリカ共和国で、「同性愛者を異性愛者に“矯正”するため」という名目のレイプがレズビアンを苦しめているというニュース。

アパルトヘイトへの反省から、現在の南アフリカ憲法は反差別色が非常に強く、サハラ以南のアフリカでは唯一、同性愛者への差別を禁ずる条項があります。ところが差別的でないのは表向きだけで、実際には強烈なホモフォビアが残っているとのこと。その証拠の最たるものが、「同性愛者を異性愛者に“矯正”する」という名目でのレイプ、すなわち、レズビアンだとカムアウトした女性を男性が性的に暴行するという行為の横行です。矯正どころか、実際にはこうして暴行された女性の多くは結局殺されるんだそうですけどね。

国際的反貧困組織であるActionAidの報告によると、南アフリカでは、ここ10年だけで少なくとも31人の女性が性的指向に基づくヘイトクライムで殺されているとのこと。しかし、実際にはもっと多くが殺されているのではないかという指摘もある模様。というのは、この国の法体系では同性愛者をターゲットとした犯罪はヘイトクライムに分類されておらず、レズビアンに対する暴力が記録に残されないこともしばしばだからです。

今までのところ、上記31件の強姦殺人事件で有罪となった犯人は1人だけ。かつて女子サッカー南アフリカ代表チームの選手だったEudy Simelaneさんがレイプされ殺された事件では、ひとりが罪を認めており、他に4人が告発されています。
このEudy Simelaneさんはカムアウト済みのレズビアンで、同性愛者の権利運動に携わっていました。彼女はギャングたちにレイプされ、全身を計25箇所刺されて殺されました。Simelaneさんの友人たちが、彼女はずっとレズビアンであることを理由に脅されていたと証言したにもかかわらず、判事はそれを動機と認めず、性的指向はこの殺人事件に関して「まったく重要でない」と申し渡したとのこと。

また、命までは取られなかった被害者Phumlaさんの場合、信頼していた男性の車に乗ったらその男の家に連れて行かれ、おまけにそこには他の男も待ち受けていてレイプされたそうです。行為の最中、男達は「おまえを懲らしめてやる」と言い続けていたとか。

南アフリカの場合、そもそもレイプそのものが非常に多いとこの記事には書かれています。昨年だけでも50000件もの被害報告があるのですが、女性団体は、届け出が出ているのは9件に1件だけだと主張しています。また、ある統計によるとこの国では26秒に1回女性が強姦されている計算になるそうです。レイプ犯への取り締まりも十分ではなく、ヨハネスブルク地域では、強姦容疑の裁判では25人のうち24人が無罪放免になるとか。
Jacob Zuma大統領自らがレイプ容疑で訴えられたこともあります。彼は裁判で「原告はミニスカートを履いて太腿を見せ、セックスをしたいとほのめかした」「ズールー族の文化では、男性は女性がその気になったらセックスに応じなければならない」と証言したそうです。結局、いくら憲法が進歩的でも、文化的価値観がネックになって性暴力がなくならないということのようです。

南アフリカ人権委員会(South Africa Human Rights Commission)が昨年行った調査では、既に次の世代の間で「同性愛者を異性愛者に矯正するためのレイプ」を肯定する姿勢が広まりつつあることが判明しています。また、同性愛者の権利団体the Gay and Lesbian Equality ProjectのPhumi Metwaさんも、事態は悪化していると考えており、自分自身レズビアンとして脅威にさらされていると述べています。

以下はMetwaさんの言葉。


「私たちは、女性が力を合わせれば心構えを変えられると言おうとしています。でも今のところは、私たちは毎日恐怖の中を生きています」
"We are trying to say that if women work together, we can change attitudes, but for now, we live in fear every day."

南アフリカって、実は同性婚も合法化されているし、同性カップルによる養子縁組制度も整えられていたりするんですよね。でも、一皮むけばこんなもの。現実が苦いわ。先日のエントリ「同性カップルは病院でどう扱われているか?(その2) - ニューヨーク・タイムズの特集 - みやきち日記」でもちょっと書きましたが、いくらセクマイ関連の法整備だけを進めても、法の理念が現場に行き渡っていなければ何の意味もないということですね。

ちなみに女性同性愛者へのレイプは別に南アフリカに限ったことではありません。米国ジョージ・メイスン大学のウェブサイトでは、以下のように説明されています。


異性愛者の女性と同じく、レズビアンも性的暴行の対象となり得る。多くの場合、暴行は単に女性だという理由で行われる。しかし、同性愛者や両性愛者の女性をターゲットとし、「懲らしめてやる」「本当に欲しがっているものを教えてやる」手段として性暴力をふるい、レズビアンへの憎悪を表現するレイピストもいる。または、虐待的な関係の中で、パートナー女性やその他の女性に襲われることもある。

Just like heterosexual women, lesbians can be sexually assaulted. In most cases this happens simply because they are female. Yet there are rapists who target gay or bisexual women, expressing their anti-lesbian hatred through this kind of violence, as a way to "teach them a lesson," or "show them what they really need." Or you may have been assaulted by your partner or another woman in an abusive relationship.

「懲らしめてやる」(teach a lesson)なんて、南アフリカでPhumlaさんが暴行されながら言われた台詞とまったく一緒じゃないですか。ああますます現実が苦い。どうすりゃいいんでしょうね、いったい。

おまけ

こうした性暴力について、「男性の性欲のせいだ」「レズビアンがわざわざカミングアウトするのが悪い」などという人が出てきそうなので、あらかじめいくつかの記事を紹介しておきます。

以下、性暴力情報センターの、レイプにまつわる「迷信」から引用。


迷信7『レイプは性的欲求を爆発させた男性によって衝動的に行われる』
ほとんどのレイプは計画的に起こっています。もともとレイプする気のなかった人が相手を見て衝動的にレイプした、と加害者が主張するケースは全体の1割前後しかありません。
迷信8『レイプをするのは性生活に不満を持っている異常な男だけだ』
レイプの加害者は普段は普通の暮らしを送っています。レイプの動機は単に性的欲求ではなく、力の誇示です。レイプ犯に心理テストを受けさせても、ほとんどの場合、特に変わった特徴や精神異常が示されることはありません。さらに、ほとんどの加害者にはレイプという手段に及ばなくても性行為のできる相手がいます。
さらに以下、米国テキサス州で性暴力と戦う非営利団体TAASAのサイトから和訳して引用。


レズビアンへの性的暴行にまつわる迷信


(引用者中略)

迷信『レズビアンはひそかに男性とセックスしたがっており、誰にも知られずに男性と寝られるよう仕組む』
誰も性的に暴行されたいと思わないし、そうしてくれと頼んだりしません。
迷信『レズビアン性的指向をひけらかすせいで性的暴行が起こる』
これは被害者叩きの言説です。犯罪行為の責任は、犯人のみにあります。