ノースカロライナ州下院議員「マシュー・シェパード事件は“でっち上げ”」→批判され「謝罪」するも誠意無し

マシュー・シェパードとは1998年にヘイトクライムで殺されたゲイ青年の名です(参考:Matthew Shepard - Wikipedia, the free encyclopedia)。彼はふたりの男によってワイオミング州ララミーのゲイバーから誘い出され、金品を奪われ、拷問され、人里離れた場所のフェンスにくくりつけられたまま放置されました。氷点下の気温の中で、です。18時間後に発見されるも彼は昏睡状態で、結局亡くなりました。マシューさんは拳銃で少なくとも18回殴られ、頭蓋骨が折れて脳幹に深刻な損傷を負っており、顔や首には多数の裂傷があったそうです。裁判では、犯人のガールフレンドたちが、犯人たちはあらかじめゲイを襲おうと計画していたと証言しています。

この事件をふまえてアメリカでは「マシュー・シェパード・ヘイトクライム法案(the Matthew Shepard Hate Crimes Bill)」なるものが議会に提出されています。これはジェンダー性的指向ジェンダーアイデンティティなどに基づく犯罪を連邦レベルでヘイトクライムに含めようというもので、去る4月29日に米国下院で可決されました。

さて、前説はここまで。冒頭に掲げたリンク先は、このマシュー・シェパード事件に対してノースカロライナ州共和党議員Virginia Foxx氏が偏見に満ちた発言をして問題になっているというニュース記事です。その発言をざっと訳してみると、こんな感じ(強調は引用者によります)。


「私はまた、ある法案があったことを――マシュー・シェパード法案と呼ばれるヘイトクライム法案があったことを指摘したいと思います――ある青年が殺されたたいへん不運な出来事に基づいて名づけられた法案ですが、その青年は強盗事件で殺されたんですよね。彼がゲイだったからではありません。これは――この法案は彼にちなんで名づけられました、ヘイトクライム法案は彼にちなんで名づけられました、でもそれがこうした法案を通過させるための言い訳に使われ続けているなんて、でっちあげ(hoax)もいいところです

上の方でも書きましたが、犯人たちはあらかじめゲイを襲おうと計画していたという証言があるんですよ。それを完全に無視とは、でっちあげはアンタの方よVirginia Foxx議員!

この発言は各方面から批判を浴び、Foxx議員は一応の謝罪をしました。でも、その「謝罪」の内容が、新たな物議をかもしています。こちらによると、議員はこのような「謝罪」の言葉を述べたそうです。


議員席で法を扱おうとして興奮している時には、誰だって言葉の選択を間違います。あの出来事がでっち上げだと行ったのは言葉の選択が間違っていました」
また、こちらではこのような「謝罪」の文句が引用されています。

「『でっち上げ』という言葉は、ヘイトクライム法案についての議論で使うには良くない言葉でした……メディアの報道を参照するのは間違っていたかもしれませんが、もし間違っていたとして、それは私が信頼できる報道だと思っていたものに起因する間違いだったのです」

謝罪になってないと思いません? 無知や偏見を用語の問題にすり替えてごまかすあたりは、日本の政治家と同じですね。あと、たとえばワシントンポストのアーカイヴでは、この事件は『明らかにアンチゲイな攻撃』(apparent anti-gay attack)によるものとしてヘイトクライムに分類されているんですが、Foxx議員の言うところの「報道」っていったい何なのよ。ちなみにこの「謝罪」に関して、マシュー・シェパードさんの母親によるコメントはこんな。

あれでは用語の意味について謝罪しているだけで、自分の意向や非情さや無知については謝罪していません。
その通りだと思います。

たしか『統計でウソをつく本』だったかに、「黒人に対して差別的な人ほど、『黒人差別はない』と言いたがる」という話が載っていましたが、それを連想させる一件だと感じました。ひょっとしたら、ゲイに対して差別的な人ほど、「ゲイ差別はない」「ゲイに対するヘイトクライムはない」と考えたがるものなのかもしれません。裁判で証言が出ていようと、メディアで報道されようと、軽やかに否認しちゃう(そして非を認めない)んだもんなあ。こうした強固な「否認」にどう対処していくか、というのがLGBTに課せられた課題のひとつなんだろうなと思いました。