障害を持つゲイのアーティスト、個展会場で襲撃さる


2012年1月5日、インドのニューデリーで、両脚義足のゲイ男性のアーティストが暴漢に襲撃されたそうです。
詳細は以下。

襲撃を受けたのはBalbir Krishanさん。事件は、KrishanさんがニューデリーのLalit Kala Akademiの個展会場で作品について説明するビデオを撮っているときに起こりました。Queertyに、まさにその瞬間の動画が掲載されています。動画には、覆面をした男性がKrishanさんの後ろから近づき、壁にかかっていた作品を叩き壊してからKrishanさん自身を突き倒すところが映し出されています。

The Times of Indiaによると、Krishanさんは1996年の列車事故で両脚を失い、以来義足生活なのだそうです。暴漢は倒れたKrishanさんの脇腹を蹴り、憎悪に満ちた言葉を投げかけたとのこと。Krischanさんの友人たちが追い掛けたものの、犯人は逃げおおせてしまい、顔もわからずじまいだそうです。

なおKrischanさんのもとには1月4日、公衆電話から何回か脅迫電話がかけられていたとのこと。電話の内容は、彼が「同性愛をインドに撒き散らしている」とか、「ヒンドゥー教を滅ぼそうとしている」などというもの。また、それよりさらに前、彼の個展のポスターが破られたり燃やされたりするという事件もあったのだそうです。

Krischanさんは警察に届けを出し、傷の手当てを受けたそうです。なお彼の作品はLalit Kala Akademiの個展会場からは取り下げられたものの、Connaught PlaceのTriveni Kala Sangamという場所に移して1月6日からまた展示を行うとのこと。

さて、ここからは余談になるんだけど、このニュースを読んでいる間、ずっと頭にあって離れなかったのが、LUNATIC PROPHETさんのこちら↓のエントリです。

より具体的には、このエントリで紹介されていたこういうヘイト意見のことをずっと思い出していました。

男同士の結婚は、当人同士で勝手にやってください。あとこっちに遊びでも冗談でもネタでも、こっちにこないでくださいお願いします! ホモは絶対に!嫌だよ!|彡サッ <男性同士が正式に結婚すると健康度が高まることが判明> nico.ms/nw171853 #niconews
― trainkeniti@ぶちすらいむさん (@tarinkeniti) 1月 1, 2012

妄想だけにしとけ。俺が不快感でストレスたまる。そのストレスはホモを殴って解消すればいいのか? <男性同士が正式に結婚すると健康度が高まることが判明> nico.ms/nw171853 #niconews
― ばとのあすみさん (@taniasoobum) 1月 2, 2012


いいことなのかも知れんがキモイ 恋愛結構結婚結構ただ気持ち悪いから黙ってろ <男性同士が正式に結婚すると健康度が高まることが判明> nico.ms/nw171853 #niconews
― testさん (@zevrun) 1月 2, 2012

およそ同性愛関連の話になると必ず出てくるのが、こうした「当人同士で勝手にやってろこっちに来るな」「俺が不快だ」「気持ち悪いから黙ってろ」という意見です。つまり、あたかも自分たち異性愛者が同性愛者に迷惑をかけられているかのような、被害者ぶった立場からの意見。でも、現実はむしろ逆です。頼んでもいないのにわざわざ同性愛者に近づいて、嬉々として暴力をふるってるんだよ、おまえら異性愛者がよ。

異性愛者が同性愛者に対していったい何をしているのかを見てみな。うちのLGBTニュースで紹介した事件のほんの一部だけでこんなだよ?

こういう現実を見る限り、いち同性愛者としては、むしろ異性愛者こそが不快で迷惑で気持ち悪い存在だからこっちに来るなと言いたいぐらいだわ。それでも言わないのは、

  1. まともな(ここでは『自分と違う性的指向の人に迷惑をかけずに暮らしていける』の意)異性愛者もいるのだから、全部一緒くたにするのは失礼
  2. 「こっちに来る」も何も、人は否応なしに雑多に入り混じりつつ肩を並べて生きているものであって、「来る」とか「行く」とかするものじゃない
  3. そもそも「異性愛者」「同性愛者」というのはイデオロギー上の概念に過ぎず、生身の人間をその物差しできっぱり分けられるものではない

とわかっているからだけど。

でもここでこういう話をしても無駄だよなー。何せヘイターご一同様(※ヘテロご一同様じゃないわよ。ヘテロ(と自認する人)の中の、haterご一同様よ)は、両脚義足の人を後ろから突き飛ばして蹴りを入れて恥じない種族なんだもの。結局のところ、個展会場の覆面男も同性婚関連のヘイトスピーチ主も、「科学で偏見チェック! 非人扱いする人の脳を見る心理学者スーザン・フィスク」で言うところの「共感脳」のスイッチが等しくオフになっちゃってるんじゃないかとあたしは思うよ。以下、引用。


社会的な相互作用(人間関係)を営む上で大事な脳部位(共感能力)が作動停止すると、人間は他者に対して抵抗なく残虐な行為を遂行できるようになる。  この機能は、いわゆる 嫌われ者 に遭遇した時にオフになるっぽい。  そのせいで、普通なら作動する「これは感情や思考がある存在だ」というみなし(共感力)が、嫌われ者に対してはなくなってしまうのだ。
● 社会階層が下だとみなされるような、麻薬中毒者やホームレスをめぐる思考では共感脳が反応しなかった。
● 共感脳は動物や自動車に対してでも反応を示す(「もの欲しそうな犬だな」「どんくさい車だなぁ」)のに、ホームレスの物乞いには視線さえ合わさない。
スーザン・フィスクはまた、「性差別意識が激しい」と評価された男性はビキニ姿の女性の写真を目にしたとき、考えや意思を持つ人間としてとらえるような脳の活動が見られなかったとも報告しています。想像だけど、ホモフォビアが激しい人たちも、同性愛者を考えや意志を持つ人間としてとらえるような脳の活動がないんじゃないかしら。だからどんなひどいことでも平気で言えるし、やれるし、それを批判されても根本的に理解できないんじゃないのかしら。
大げさな話になるけど、こういう脳のニューラル・ネットワークのスイッチオフ状態への対処を考えないと、ヘイトクライムヘイトスピーチはいつまでたってもなくならないんじゃないかという気がします。せめてこういう人たちが「近寄るな」と叫びつつ自分から同性愛者に近づいて熱心に暴力(言葉の暴力も暴力だよ!)をふるうのをなんとかする方法があればいいんだけど、それはさらなる研究や、それを生かした制度設計を待つしかないのかなあ。とにもかくにも、Balbir Krishanさんの個展が暴力で潰されるのではなく、別会場できちんと継続されてよかったです(とむりやり元の話題に戻して終わる)。