「優雅に生きることが最良の復讐である」

以下、『「ひとつ、村上さんでやってみるか」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶつける490の質問に村上さんはちゃんと答えられるのか?』(村上春樹、朝日新聞社)p52からの引用です。


優雅に生きることが最良の復讐である、ということわざがスペインにあります。どんなひどいことを言われても、されても、柳に風と受け流し、「知ったことか」と楽しく優雅に生きていくことが、最良の復讐なのだということです。含蓄のある言葉ですね。

いいことわざだなあと思って、スペイン語で何というのか調べてみたら、"Vivir bien es la mejor venganza."または"La mejor venganza es vivir bien."のようです。「優雅に」の部分は"elegantemente"じゃなくて"bien"だから、「善く生きる」とか「立派に生きる」とか「裕福に生きる」いう意味も包括する感じなのかな。とにかく、とても気に入ったので、覚えてしまおうと思います。
さらに同じ本の中に、これは"vivir bien"(直訳すれば、「よく生きること」)だよな、と思う部分があったので、メモ。(p24)


僕はいやなこと、つらいことがあると、外に出て走ります。もちろんいやなことがなくても、だいたい毎日走っているんだけど、いやなことがあるといつもよりちょっと余分に走ります。つまり10キロ走るところを、11キロ走るわけです。そうすると、そのぶん身体が強くなりますよね。ということは、いやなことがあっただけ、自分が強くなるわけです。そう思うと、少し心が楽になります。

いやなことがあったときにそのつらさを運動にぶつけて、強くなった身体で楽しく元気に生きていけるならば、それはかなり"vivir bien"(「よく生きること」)的だと言えるんじゃないでしょうか。あたしはランニングではなく筋トレをする人なのですが、ストレスを筋トレにぶつける趣味があるので、このへんの感じはちょっとわかる気がします。かつて、きつい職場で理不尽な上司に当たった時期など、人生で一番ベンチプレスの記録が伸びたものですが、おかげで今でも丈夫な身体で元気に暮らせています。ということは、あれは最良の復讐だったのか。ふむふむ。

さて、こういうことばっかり書いてくるとあたかもこの本が「村上春樹による人生訓」集であるかのようですが、決してそんなことはありません。これは村上氏とたくさんの読者との軽妙洒脱なメールのやりとりを収めた本であって、「揚げたてのドーナッツ」や「りすざる」や「神宮球場の黒ビール」や「全裸家事主婦」など、いかにも村上春樹らしい楽しい話題もたくさん出てきます。まだ全部は読みきってないので、これから毎晩楽しみに少しずつ読もうと思っているところです。