ダンキン・ドーナッツの思い出

昨日の日記でふれた『「ひとつ、村上さんでやってみるか」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶつける490の質問 に村上さんはちゃんと答えられるのか?』(村上春樹、朝日新聞社)に「ダンキン・ドーナッツは日本から撤退し、今では米軍基地内の店舗を残すのみ」ということが書いてあって(p161)、軽いショックをうけました。そうか、撤退しちゃってたのか、ダンキン・ドーナッツ。
あたしにとってダンキン・ドーナッツとは、恋人との待ち合わせの味です。昔、遠距離恋愛でつきあっていた人の家の近くにダンキン・ドーナッツの店舗があって、よくそこで待ち合わせをしていたからです。普段の生活圏にはミスター・ドーナッツしかなかったあたしにとって、ダンキン・ドーナッツと言えばその店のことでした。たいていあたしの方が早く着いて、揚げたてのドーナッツをかりかりさくさくとかじりながら恋人を待っていたのですが、これはなかなかいいものでした。わりと食事や運動には気をつける方なので、普段はドーナッツなんてほとんど食べないんですが、ダンキン・ドーナッツなら、「ほら、スペンサーだって食べてるし」と言い訳が立つのが嬉しかったなあ。その店のドーナッツやいれたてのコーヒー自体、なかなか美味しかったし、もちろん何よりも「もうすぐ好きな人に会える」というわくわく感が最良のフレーバーとなって、デート前のダンキン・ドーナッツは特別な味がしたのでした。それに当時はお金がなくて、数百キロの距離を高速も使わずにオートバイで走って会いに行くことも多かったので、疲れ切った体でありつくあったかいドーナッツとコーヒーは本当にありがたかったものです。
いろいろあってその恋が終わってしまってからもうずいぶんたつのですが、「ダンキン・ドーナッツ」という文字を見ると今でも反射的にあの小さな店舗と、傍を走っていた東横線と、もう名前も忘れてしまったドーナッツやマフィンの味を思い出します。そうか、撤退しちゃってたのか、ダンキン・ドーナッツ。これで本当に全部「終わった」って感じがするなあ。