バージニア州司法長官「わが州の大学はゲイ差別を禁止してはいけない」
- Virginia attorney general to colleges: End gay protections - washingtonpost.com
- Box Turtle Bulletin » VA AG Cuccinelli to universities: “you must allow discrimination against gays”
米国バージニア州のKen Cuccinelli II司法長官が、同州の大学はLGBTに対する差別を禁止してはいけないという見解を示しているというニュース。
この司法長官はバージニア州の大学が校則でLGBTへの差別を禁じているのが気に入らず、2010年3月4日に各大学に手紙を送り、大学側にはそのような差別を禁ずる法的権限はないと告げたんだそうです。
以下、手紙の内容からの引用。
「バージニア州の法律および公の政策は、大学や短大が州議会からの特別な許可なしで『性的指向』、『ジェンダー・アイデンティティ』、『ジェンダー表現』またはそれに準ずる分類を、大学の反差別ポリシーによる保護対象に含めることを禁止するべきです」
"It is my advice that the law and public policy of the Commonwealth of Virginia prohibit a college or university from including 'sexual orientation,' 'gender identity,' 'gender expression,' or like classification as a protected class within its non-discrimination policy absent specific authorization from the General Assembly,"
バージニア州の主な大学には雇用や入学許可におけるLGBT差別を禁ずるポリシーがありますが、それは各大学が「適切な権限」なしに勝手に行ったことであり、「州の法律と公的政策に一致させるべく、適切なアクションを起こす」べきであるというのが司法長官の「助言」なんだそうですよ。
要するに「州法や州の公的ポリシーではLGBT差別は禁じられていないんだから、大学が勝手に差別禁止しちゃダメ」ってことですよ。何それ意味不明。
Box Turtle Bulletinでは、「これは、『ゲイ差別を認めろ』ということなのか? バージニア州においては、『イエス』だ」と手厳しい批判が展開されています。同州は反ゲイ色が強い土地であり、先月知事に就任したBob McDonnell氏も、同性愛者の州職員に対する反差別ポリシーを撤廃する命令にサインしているとのこと。「同性愛者を特別に保護する法律がないから」というのがその理由だそうで、司法長官と大差ない考え方ですね、これは。
なお、バージニア大学、バージニア工科大学、ウィリアム・アンド・メアリー大学、ジョージ・メイソン大学などは、司法長官からの手紙についてのコメントを拒否し、この件については管理委員会が調査するとしているとのこと。
他の大学からは、「トップレベルの生徒や職員を集めるには反差別ポリシーが必要」としてCuccinelli司法長官への批判の声も上がっているそうです。また、Mark Warner連邦上院議員(元バージニア州知事)は、司法長官の助言は「バージニア州の学問的な優秀さや多様性についての評判に損害を与えるものである」という声明を出しているとのこと。
Cuccinelli司法長官のこの「助言」って、要するに「差別する自由」を侵害するなってことなんでしょうか。日本人も大好きだよね、この「差別する自由」ってやつ。でも、「差別」の定義を明確にしないまま、そんな自由が「ある/ない」と議論したり、今回のバージニア州司法長官みたく「勝手に差別禁止するな」と言い出したりすること自体がヘンだとあたしは思います。ちなみにOxford English Dictionaryにおける"discrimination"(差別)の定義はこんなですよ(訳はみやきちによります)。
- 特に人種や年齢、性別に基づいて、種々の集団に対し不当な、または偏見にもとづく取り扱いをすること
- あるものと別のものとの相違を認識し理解すること
- the unjust or prjudicial treatment of dirrerent categories of people. especially on the grounds of race, age, or sex
- recognition and understanding of the diffrence between one thing and another
大辞泉だとこう。
- あるものと別のあるものとの間に認められる違い。また、それに従って区別すること。「両者の―を明らかにする」
- 取り扱いに差をつけること。特に、他よりも不当に低く取り扱うこと。「性別によって―しない」「人種―」
人種差別反対とかLGBT差別反対とかいうのは、OEDにおける1、大辞泉における2で言うところの「差別」への反対なわけ。つまり特定集団に対する「不当な取り扱い」をやめろ、っていう話なわけね。その文脈で話をしてるのに、のほほんと「ボクには差別する自由があるはず!」とか言っちゃうのは「ボクには『不当なこと』をする自由があるはず!」って言ってるのと同じで、阿呆もいいとこ。念のため言っておくけど、ここで聞きかじりの自由主義とか愚行権とかを持ち出すのなら、自由主義の基本原則は「他者危害の原則」(harm to others)だ*1ってことも少しは考えてよね、まったく。
バージニア州の各大学における差別禁止ポリシーにしたって、「不当な、または偏見にもとづく取り扱いは禁止」ってことでしょう、要するに。そこへ司法長官みずから「法律が禁止してないんだから、『不当な、または偏見にもとづく取り扱い禁止』はしちゃいかん」って何それ。じゃあ、バージニア州の野球の試合では、「法律が禁止してないから」、スピットボールもグリースボールも禁止できないわけ? バージニア州のアメフト選手は、「法律に書いてないから」、オフサイドをやらかしても5ヤード罰退をくらわないわけ? 違うでしょうが。アンフェアなことはやめようね、というコンセンサスのもと、野球には野球の、フットボールにはフットボールのルールがちゃんとあるわけでしょうが。
ある団体が、「不当なことはやめましょう」というルールを自主的につくったとき、それを批判できるのは、そのルールで禁止されている行為が実際には「不当なこと」ではなかったときだけなんじゃないかと思うんだけど、違うのかしらね。ご近所のワシントンDCでは先日同性婚が解禁され、メリーランドでは他州で行われた同性婚が法的に有効とみなされているっていうのに、恐ろしい州だわ、バージニア。アメリカへの留学を考えているLGBT生徒は、こういう情報をこまめに集めておいた方がよさそうですね(『自分のTOEFLの点数で入れそうなところ』という基準だけで留学先を決めちゃう日本人ってけっこういるけど、危険だと思うわー)。
単語・語句など
単語・語句 | 意味 |
---|---|
legal authority | 法的権限、法律上の権限 |
General Assembly | 州議会 |
the Commonwealth | 州、準州(公式名としてMassachusetts, Pennsylvania, Virginiaなどに用いる) |
admission | 入学、採用 |
conformance | 一致、適合、順応 |
*1:意味がわかんない人は、ネットで断片的な知識を探すよりも、『応用倫理学のすすめ 』(加藤尚武、丸善ライブラリー)でも読むといいと思います。