レズビアンのヨハンナ・シグルザルドッティル氏がアイスランド首相に就任した件で嬉しかったこと

以下、アイスランドで2009年2月1日、同性愛者であることを公にしているヨハンナ・シグルザルドッティル議員が新首相に就任した件についての話。

首相の性的指向ぐらいでいちいち大騒ぎしないアイスランドの皆さんのリベラルさも嬉しいし、レズビアンの存在が可視化されることももちろん嬉しいです。でも、いちばん嬉しかったのは、あたしの地元紙である中日新聞(2009年2月2日夕刊)のこの書き方なのさ*1。以下、強調は引用者によります。


アイスランドに女性首相 同性愛公表者は世界初


(引用者中略)


英メディアによると、シグルザルドッティル氏は同性愛者であることを公にしており、世界で初めて同性愛者であることを公表した首相の誕生になる。

同性愛者は世界初」でも、「世界で初めての同性愛者の首相」でもないことに注目。もしそう書いたら、それって、「これまでには同性愛者の首相はひとりもいなかった」と断定していることになりますよね。どうやって確かめたのよそんなこと。実際にはクローゼット・ゲイの首相だっていたかもしれないのに、異性愛者が大好きな「黙っていればみんなヘテロと決めつける」方式で勝手にこれまでの首相を全員ヘテロ認定なんて、おかしくない? と思うわけ。
でも中日新聞は違ったね。「世界で初めて同性愛者であることを公表した首相」という書き方なら、「ひょっとしたら過去にも同性愛者の首相はいて、でもカミングアウトしてなかった/できなかっただけかもしれない」っていう可能性がきちんと残されてるもんね。これはとてもフェアだし、しかもより正確な表現だと思うんです。
もっとも中日新聞がソースにしているのは英メディアのようなので(紙面版では記事内に英タイムズ紙からの引用があったりします)、単純にそちらからの影響もあるのかもしれません。試しに英タイムズとBBCのサイトを見てみたところ、記事中では


the world’s first openly gay premier


(拙訳:『世界初の、同性愛者であることを公表している首相』)

the first openly lesbian head of government in Europe, if not the world - at least in modern times.


(拙訳:『少なくとも現代において、もし世界初でないとしてもヨーロッパでは初の、レズビアンであることを公表している政府首長』)
という言い回しが使われていますしね。それにしてもBBCの言い回し、超慎重で好感がもてます*2
翻って日本での一般的な反響はどうかと、「アイスランド 首相 レズビアン」「アイスランド 同性愛 首相」でGoogle検索してみました。

見事なまでに「世界初の同性愛者首相」って言い回しがザクザク出てきますな。ゲイサイトやレズビアンサイトでさえも平気でそういう表現を使っているところが多くて、めまいがしました。もういいかげんに、そうやって「特にセクシュアリティを公表してない人は全員ヘテロと断定する」って風潮、やめようよー。せっかくオープンリー・ゲイな一国の首長が誕生したのに、それを喜ぶ記事ですらいちいち異性愛主義を再生産せずにはいられないっていうのはおかしいよやっぱり。

まとめ

  • 「世界初の同性愛者の首相」と「世界初の、同性愛者であることを公表している首相」の区別をきちんとつけている中日新聞はエライ。いち読者として嬉しい。
  • でも、巷にはまだそのへんの区別がついてない人もいっぱりいるみたい。いいかげんに、「特にセクシュアリティを公表してない人は全員ヘテロと断定する」(たとえ無意識的にでも)っていう悪習はやめませんかみなさん。

*1:とりあえずWeb版記事へのリンクを張っておきますが、紙面版の記事はもっと長くて、シグルザルドッティル氏の経歴やパートナー、子供などについても詳しく書かれています。ご興味がおありの方はぜひご一読を。

*2:英タイムズが見出しだけ"first lesbian PM"とやっちゃってるのはご愛敬といったところでしょうか。