「学校教育は役に立たない」と言う人は、学校で習ったことを果たして覚えているんだろうか


まずこの問題をやってみてください。ちなみにこれは小学1年生で習うことです。


問1:(   )に入る数字を答えなさい。
12-3=(   )
問2:問1がなぜその答えになるか説明しなさい。
(                             )

できましたか?

さて、このような答えをされた方はいらっしゃらないでしょうか。


問1:
12-3=(9)
問2:
(12個のおはじき(マッチ棒、えんぴつ、etc.)から3個取って残りを数えると9個だから。)

はい、失格。問1の答えこそ合っていますが、あなたは小学1年生で習ったことを、少なくとも意識の上ではきれいに忘れてしまっているようです。だってあなたは、


10002-3=(     )
という計算をするとき、わざわざ10002個のおはじきを並べてそこから3個取ったりしないでしょ? これらはどれも「繰り下がりのあるひき算」と呼ばれるものですが、学校で習う計算方法は、「おはじきを並べてそこから取るだけ」式のやり方じゃないんですよ。

上記問2の正解はこうです。


12は、10と2を合わせた数です。
12の中の10から3をひくと、7です。7と残りの2で、9になります。
つまり、12-3=(10+2)-3=10-3+2=7+2=9、ということです。
ここで使われているのは、「数の合成と分解」という概念。小学1年の算数では、こうした繰り下がりのあるひき算を学習する前に、「いくつといくつ」という単元で、

  • 10は、1と(   )
  • 10は、2と(   )
  • 10は、3と(   )
  • 10は、4と(   )
  • 10は、5と(   )
  • 10は、6と(   )
  • 10は、7と(   )
  • 10は、8と(   )
  • 10は、9と(   )

  • 1と(   )で10
  • 2と(   )で10
  • 3と(   )で10
  • 4と(   )で10
  • 5と(   )で10
  • 6と(   )で10
  • 7と(   )で10
  • 8と(   )で10
  • 9と(   )で10

……という風に、10をひと桁の数ふたつに分解したり、ふたつの数を合成して10を作ったりする練習をすごくたくさんやるんです。それこそ、おどうぐばこのおはじきなんかを使いながら。その後、「のこりはいくつ」(繰り下がりのないひき算)という単元で10からひと桁の数をひくひき算をたっぷりやります。さらに「繰り上がりのあるたし算」の単元で、「数の中に10のまとまりをつくる」という計算のしかた(参考:8+7のような,繰り上がりのあるたし算は,どのように指導したらよいのですか/PDF)を習います。そこまでやって初めて、「12-3」のような、繰り下がりのあるひき算を

  1. 数を「10」と「ひと桁の数」のまとまりに分ける
  2. 10からひき算する
  3. 2の答えと、1で分けたひと桁の数を足す

というプロセス(参考:12−9のような,繰り下がりのあるひき算は,どのように指導したらよいのですか/PDF)で解くことを教わるんです。めんどくさいでしょう? でも、こうして数の合成と分解の概念を学校でみっちり教わるからこそ、大人は「10002-3」を暗算でやれるんです。たとえば、

  1. 10002は、9990と12
  2. 12ひく3は9
  3. 9990と9を合わせて、答えは9999

みたいにね(他の数の組み合わせの『合成・分解』で解く人ももちろんいると思いますが、ここでは割愛)。実際には計算のプロセスはほとんど無意識化されてますから、ここまでいちいち考えながら計算してる人ってめったにいませんが、根底にあるのは小学1年生で習った「数の合成と分解」の考え方なんですよ。

大人は昔のことを忘れます。小学校の勉強というと、いきなり「12-3=9」みたいにばんばん式を書いて計算ドリルばっかりやってた気になってたりします。実はその計算ができるようになるまでに、数を分解したり合成したりして効率的に考える訓練をすごくたくさん受けているのに、その部分はすっかり忘れて、「足し算引き算なんて簡単」「おはじきを合わせたり取ったりするだけじゃん」と思ったりしてる。でも、それは違うんです。

計算の向こう側にある「数学的概念」をどこかで習わなければ、人はおつりの計算すらろくにできません。いや、ごく稀に、誰にも教わらなくてもひとりでどんどん数学的発想を身につけてしまう人もいることはいますよ。でもそれは「天才」と呼ばれるべきものであり、公教育は天才を基準に考えるべきではないと思います。ましてや天才でもなんでもない人が、昔学校であんなに時間をかけて数学的概念の訓練をしてもらったことをすっぱり忘れて「学校の勉強なんてさー」とうそぶくのはアホそのものです。アンタがおつりの計算ができるようになるために、あるいは「期間限定20パーセントOFF!」みたいなチラシの意味がわかるようになるために、「時給1050円」と言われて月いくら稼げるか即座に暗算できるようになるために、どれだけの税金と人材使って教育されたと思ってんのよ。何をどう習ったかすら覚えてないような輩が、教育をなめるんじゃないわよ。