『KIZU―傷―』(ギリアン・フリン、 Broadway Books)感想
映画『ゴーン・ガール』の原作者、ギリアン・フリンのデビュー作にしてCWA2部門受賞作。英語版(原題:"Sharp Objects")をkindle版で読みました。
- 作者: Gillian Flynn
- 出版社/メーカー: Weidenfeld & Nicolson
- 発売日: 2007/09/17
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログを見る
日本語版はハヤカワから文庫で出ていて、現在マーケットプレイスでしか手に入らない模様。
- 作者: ギリアン・フリン,北野寿美枝
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/10/24
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
歯を引き抜かれた少女たちの遺体が発見され、新聞記者カミルは取材のためにやってきた。母との確執で飛び出した故郷の町に。取材を始めた彼女は、犯人は被害者の身内なのではとの町の噂を聞く。そんな時、カミルは母と腹違いの妹に再会した。そして事件の真相とともに彼女の過去の傷がぱっくりと口をあけ……傷つき壊れる直前の人々が、悲劇を紡ぐサスペンス。英国推理作家協会賞二部門を受賞した大型新人のデビュー作。
本作をワンセンテンスで表現するなら「最後の4分の1だけが面白い、評価に困るサイコ・スリラー」です。全部で約400ページのうち最初の約300ページは退屈そのもの。つかみが弱いなんてレベルを通り越し、「あの『ゴーン・ガール』の作者がなぜここまで退屈なものを書く!?」とあっけに取られるレベル。実際、全17章(+エピローグ)で構成されたこの作品で、途中で居眠りせずに読めたのは最後の2章とエピローグだけでした。
キャラは主人公も含めて全員薄っぺらで共感しにくく、ストーリーも(最後の4分の1にさしかかるまでは)起伏がないにもほどがあるダル展開。かと言って何か文学的に目を見張るような描写があるかと思えばそれもなく、むしろ、バカに何か言って聞かせるかのような幼稚な繰り返しっぷりが鼻につきます。性的描写や残酷描写も安っぽく、ダークというより単なる俗悪。読み進めるのにこれだけ忍耐が要った小説も久しぶりで、最初の300ページだけなら5段階評価で★1つの作品でした。
ただねえ、困ったことに最後の4分の1が面白いんです。大きなひねりが2箇所あって、最初の方はまだ予想がつくんですが、もうひとつにはすっかり「やられた」と思いました。そこからの一気呵成の幕引きもよかった。CWA賞はおそらく、このあたりを評価して贈られたものなんでしょうね。
がまんして最後まで読み通したのは正解だったと思いますが、2度読み返す気にはなれません。全体を通じて評価するなら、「5段階評価で★2つ」でしょうか。『ゴーン・ガール』のヒットを受けてか、日本語版の値段がマーケットプレイスでずいぶんつり上がっている(現時点で『中古品¥2478より』)ようですが、そこまでお金を出して読む価値は果たしてあるかどうか。¥694のkindle版で済ませた自分を誉めてやりたいです。