レズビアン母に育てられた娘が語る、「自分もレズビアンかもしれないと思ったことある?」への答え

先日紹介した、「ニューヨーク生まれゲイ家庭育ち、わかってない奴にゃナマハゲ攻撃」のエマ・タッテンバウム=ファインさんが、またしても非常におもしろいコラムを発表してました。レズビアンカップルに育てられた子どもとして、「自分もレズビアンかもしれないと思ったことはある?」という問いにどう答えるかという話です。

詳細は以下。


ふたりのママの元で育った経験をブログに書いているため、最近友だちのひとりからこう訊かれた。「自分の家で学んだライフスタイルがレズビアンのそれだったせいで、自分はレズビアンかもしれないって思ったことある?」
これには、あるストーリーを話すことで答えねばならないだろう。
Now that I'm blogging about growing up with two mommies, a friend of mine recently asked me, "Did you ever think you might be a lesbian, since that's the lifestyle you knew from home?" Obviously I have to answer this one with a story.

ここで言う「あるストーリー」とは、エマさんが大学1年生だった頃の実体験です。彼女は当時バージンで、演劇のリハーサルやら授業の準備やらに忙しすぎて、何をどうやっても「男を口説いて射止める」暇がなかったとのこと。そもそも男友達のほとんどがゲイだった上に、気になるヘテロ男子は他の女の子に夢中だったりして、エマさんの割って入る余地がなかったのだそうです。

そんなときに演劇のクラスで知り合ったのが、レズビアンのルーシーさん。エマさんにとっては、初めて出会った「若いレズビアン」でした。というのはエマさん、小さい頃からレズビアンと言えばお母さんたちとその友だちしか知らなかったから、レズビアンと言えばみんな50代かと思い込んでいたんですって。早い話が、それまでのエマさんにとっては、レズビアンというのはみんな50代以上で、キューバ旅行やフォークソングが好きで、これでもかというぐらい履きやすい靴を履くような人たち(確かにこれってこの世代のレズビアンの典型だよねえ)しか存在せず、「レズビアンにも若い頃ってあったんだろうか」と思ってすらいたんだそうです。

一方、このルーシーさんというのは、いつもローヒールのレザーブーツと質の良い生地の服を身にまとい、化粧はきれいな色合いの口紅だけで、パジャマのズボン姿でうろうろするような演劇クラスの生徒たちの中では際立ってステキな人だったんだそうです。ユーモアのセンスがあって、演劇の才能もあって、旅慣れていて、本当にすごい('totally marvelous')人だったんだって。

で、ある日エマさんはリハーサルの休憩中、こんな風にルーシーさんに話しかけました。


「これまで会った中で、50歳未満のレズビアンってあなただけみたい」わたしは彼女に言った。
「ほんと?」彼女は尋ねた。
「うん。わたしはストレートなの。ていうか、ストレートだと思うんだけど、まだバージンでさ。面白半分でいいから、わたしと寝てもらえないかな? つまり、わたしがストレートだって最初から言ってても、って意味だけど」
"You're like the only lesbian I've ever met under the age of 50," I told her.
"Really?" she asked.
"Yeah. I'm straight. I mean, I feel straight, but I'm still a virgin. Would you ever hook up with me, just for fun, if I'm telling you from the outset that I'm straight?"

これに対するルーシーさんの返し方が秀逸なんですよ。いちレズビアンとして、スタンディングオベーションを贈りたい。


ここで彼女はわたしの方に向き直った。そこまでの友情モードは劇的なまでに変化し、以下のようにしか説明しようのないモードに突入していた。

ちょっと想像してみて。ビーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズが、何か家族のイベントから、そうね、おじさんの誕生日パーティーとかから出てきて、そのほんの数分後にUSオープンで姉妹対決するところを。ふたりがコートに立ち、ネット越しにお互いの姿をじっと見るところを、もはや家族ではなく敵チームのプレイヤーへとスイッチが切り替わっているところを想像してみて。

ルーシーはそんな風にわたしを見たのだ。そして、わたしの哀れなほどバカな提案に対する彼女の答えはこうだった。「女の人とセックスしたいの? プッシーを舐めたいわけ? あれは熱くて、においがあって、べたべたしていて不潔で、唇から汁が滴り落ちるんだけど、あなたはそうするのが大好きってわけよね、だって女の人とセックスするってのはそういうことなんだから。わかった?」

「わかった」とわたしは言った。首を横に振って、いいえ、わたしはそういうことはしたくないと示しながら。
And at this point she turned to me, creating a dramatic transition in our friendship that I can only explain like this:
Imagine Venus and Serena Williams immediately going from a family event, like, say, their uncle's birthday party, to playing against one another in the U.S. Open just minutes later. Imagine the moment they get on the court and eye each other from across the net, when they are no longer family and have switched, unequivocally, to playing for opposite teams.
That's how Lucy was now looking at me. And this is what she said to my pathetically half-assed proposition: "You want to have sex with a woman? You want a pussy in your mouth? It's hot, and it smells, and it's sticky and filthy, and it drips from your lips, and you love it, because that is what it is to make love to a woman. OK?"
"OK," I said, shaking my head to indicate that, no, I didn't want those things.

ブラボー!! ルーシーさん、ブラボー!!!!!!

ちなみに、ここで「レズビアンが全員オーラルセックスをするわけではない」とかなんとか指摘するのは筋違いだと思います。あたしはこれ、ルーシーさんがわざと露悪的に言ったセリフなんだと思うな。テニスの喩えを拝借するなら、こういうときに立ち位置のちがいをわかってもらうためには、時速207.6kmのサーブを叩き込んでみせるのがもっとも早いってことです。おしゃもじ片手にテニスコートに入ってきて「わたしテニスは好きじゃないと思うんだけど、これでちょっと打ってみたいの」って言われてもこっちだって困るから、「テニスってこういう世界なんですけどわかってますか」と全力でサービスエースを取りに行ったんですよルーシーさんは。

さて、その後エマさんはどうなったか。20歳のときに彼氏ができました。それも、ルーシーさんにしたのとほぼ同じ提案を介して。バージンでいるのにうんざりしたからセックスしよう、というエマさんのことばに対し、彼氏さんは3分間言い逃れをしたのち同意し、その後1年半くっついたり別れたりしながらつきあう関係になったんだそうです。現在のエマさんは、ルーシーさんについても、彼女のあの率直さについても、好もしい気持ちしか浮かばないとのこと。

以上のようなわけで、冒頭の「自分はレズビアンかもしれないと思ったことある?」という問いに対するエマさんの結論は、こうです。


いいえ、自分がレズビアンだとも、かつてそうだったことがあるとも思わない。わたしがバイキュリアス(訳注:『同性との性行為の経験はないが、興味がある』の意)なのかって? そのとおり。月に行きたいとも思うけど、わたしは宇宙飛行士じゃない。そして、今現在の立ち位置で幸せなのだ。
No, I don't think I'm a lesbian or that I ever was. Bi-curious? Sure. I would also like to go to the moon, but I'm not an astronaut, and I'm happy where I am.
すばらしく当を得た結論だと思いません? 「宇宙飛行士」のひとりとして、エマさんにもルーシーさんにも心から拍手を贈りたいです。