『スケルトン・クルー(1)骸骨乗組員』(スティーヴン・キング[著]/矢野浩三郎・他[訳]、扶桑社)感想
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キングの短篇集"Skelton Crew"を3分冊した邦訳版の1冊め。収録作は以下。
- 序文
- 握手しない男
- ウェディング・ギグ
- カインの末裔
- 死神
- ほら、虎がいる
- 霧
この1冊の中でもっとも楽しみだったのは、映画『MIST』の原作となった中篇「霧」です。あたしは映画の方を先に見たので、キングをして「自分もこれを思いついていたらよかったのに」と言わしめたという映画版の結末とはどう違うのか、興味しんしんでした。
結論を先に言うと、あたしは映画版の方が好きです。「霧」も悪くはないのですが、『MIST』のラストシーンの完璧な絶望とクリアなメッセージには負けます。実は映画版のあのオチの元となるアイディアは、小説版のデイヴィッドのモノローグの中にすでに存在する(文庫本だとp. 328)のですが、それをあそこまで鬼気迫るかたちで具現化してみせたのがフランク・ダラボンのすごいところでしょう。
結末以前の流れだけを見るなら、映画の方は主人公がクリーンなヒーローとして描かれすぎているようにも見えてしまうと思います。アマンダのエピソードを削ったあたりなんて、とくに。でも、それも全て、あの強烈きわまりないラストのための布石だったと考えれば納得がいきます。そこまでのお話の構造が徹底して「善良でリーダーシップあふれる正義のお父さんVS邪悪なるもの」であるからこそ、最後の皮肉があれだけガツンと効いてくるのでは。というわけで、あたしの中では映画版の方が一枚上という結論に落ち着きました。
この短篇集で他のお気に入りは「ほら、虎がいる」かな。子供らしい恐怖がさっくりと日常を浸食していくところがよかったです。