『ナイトシフト(2)トウモロコシ畑の子供たち』(スティーヴン・キング[著]/高畠文夫[訳]、扶桑社)感想

ナイトシフト〈2〉トウモロコシ畑の子供たち (扶桑社ミステリー)ナイトシフト〈2〉トウモロコシ畑の子供たち (扶桑社ミステリー)
ティーヴン キング 高畠 文夫

扶桑社 1988-07
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キングの短編集『ナイトシフト』の後半部。収録作は以下。

  • 超高層ビルの恐怖
  • 芝刈り機の男
  • 禁煙挫折社救済有限会社
  • キャンパスの悪夢
  • バネ足ジャック
  • トウモロコシ畑の子供たち
  • 死のスワンダイヴ
  • 花を愛した男
  • <ジェルサレムズ・ロット>の怪
  • 312号室の女

ヴァンパイヤも超能力も出てくるけれど、これはSFとかホラーとか言うより、人間の狂気や不安をつきつめた作品集なんじゃないかと思います。日常的な風景の中に潜む悪夢を独特の筆致であぶり出すという点では、ダールやアイリッシュを連想したりしました。
「バネ足ジャック」の不吉きわまりないオチや、「トウモロコシ畑の子供たち」の宗教的熱狂の不気味さ、「<ジェルサレムズ・ロット>の怪」の視覚的な恐怖(『鹿の目というのは、夜、あんなふうに見えるものなんですか?』の場面とか!)も大好きですが、この短編集でより印象的だったのは、もっと誰にでも起こりうる恐怖を描いた作品群です。よろしい、あなたは呪われた町に近づくことも、悪魔の機嫌をそこねて生贄にされることもないかもしれない。米国中西部では車を停めず、さっさと走り抜けてしまうかもしれない。それでもなお、「死のスワンダイヴ」のキティの兄と同じ立ち場に立たされることは十二分にあり得ます。「312号室の女」の息子の立ち場に追い込まれることも。これらの作品で描かれる恐怖は――という言い方が強すぎるのなら、後味の悪さは――B級ホラー的な仕掛けを一切必要としないだけに、より逃げ場のないものとなっていて、読むたびにぬっぺりとした絶望感につつまれます。キングってば意外と引き出し多いと気づかされる1冊です。