『ばんば憑き』(宮部みゆき、角川書店)感想

ばんば憑きばんば憑き
宮部 みゆき

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-03-01
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江戸を舞台とする怪異譚6編をおさめた短編集。平易な語り口調でしっかりゾクゾクさせてくれる、たのしい1冊でした。
宮部みゆきの江戸ホラーで面白いのは、ただの化け物話・幽霊話に終わらずに、いつの世も変わらぬ人間の業の怖さをえぐり出すところにあると思います。たとえば、「討債鬼」のとあるキャラクタに巣くう欲望の恐ろしさ。あるいは、「博打眼」の化け物が生まれたいきさつの哀しさと凄惨さ。他人事、絵空事とのんきに眺めて終われないような、ごくごく身近な恐怖がそこにあります。
あたしがいちばん気に入ったのは、表題作「ばんば憑き」でした。


「こういうとき、格別の手だてがございますんですよ」
という老女のことば(p. 293)から先が、もう目が離せなくて離せなくて。老女の村に伝わるという「手だて」のおぞましさもさることながら、人が好く優しいキャラクタが一瞬だけ見せる狂気のなまなましさがなんとも強烈でした。きわめて人間くさいこうした狂気の瞬間を鮮やかに切り取ってみせる手腕に、ただ脱帽です。

他には、『日暮らし』の政五郎やおでこ、『あんじゅう』の青野利一郎などが出てくるのも、宮部ファンにとってはうれしいところ。372ページという分厚さがまったく苦にならない傑作でした。