百合レビューと充電、あるいは『酔拳』廉価版DVDを見ながら考えたこと

数年にわたって百合物を読んではレビューし、読んではレビューし、ということを大量にやりつづけていたら、脳みそがスッカスカの絞りカスになってしまったような気がします。同じ時代の同じジャンルのものばかりを見続けると視野・見識が狭まり、語彙も減るばかりで、レビュワーにとっては決していいことではありませんね、これは。

最近、体調を崩したこともあって意図的にレビュー書きを休み、百合以外の本や映画だけに親しむようにしていました。『パイの物語』の構成力に唸り、『ノリーのおわらない物語』のみずみずしさに笑い、その翻訳者岸本佐知子さんの『ねにもつタイプ』のシュールさに舌を巻き、開高健『オーパ、オーパ!』の豊富な語彙に酔い――と、たいへん楽しい毎日です。「この表現すごい」「世の中にはこんな発想もあったのか」などとわくわくしているうちに、スッカスカの脳みそがまた少しずつ充電されていくのが感じ取れます。これだよ、これが欲しかったんだよ。

そんな「充電」の日々の中、実はもっとも勉強になったのは、スーパーで500円で購入した『酔拳』廉価版DVDでした。最近公開された『酔拳2』じゃなくて、オリジナルの方ね。これの音声解説があまりにも深く、かつ面白くて、「レビュワーたるもの、これぐらいの時間的・空間的広がりのある視点を持ちたいものだ」と畏敬の念に打たれました。

この音声解説を担当しているのは、"Great Martial Arts Movies"の著者でアジアン・カルト映画のコラムニストのリック・マイヤーズと、『僕はジャッキー・チェン』共同著者のジャフ・ヤン。彼らは多彩な例を提示しながら

  • 香港映画とアメリカ映画の違い
  • アメリカ向けの吹き替えや編集の問題点
  • 香港映画の伝統やパロディーについて

等について詳しくわかりやすく語ってくれており、これを聞いただけで『酔拳』のみならず他の映画の見方もずいぶん変わってくること間違いなし。どうして自分はヴァン・ダム映画をレンタルするといつも微妙な気分で返却することになるのか、またどうして『ファントム・メナス』を最後まで見られず飽きてしまうのか等々、目の前の霧が晴れるようにクリアになりました。音声解説では直接触れられていないことでも、「ということは、『カンフー・パンダ』や『ドラゴン・キングダム』のあの場面にはこういう意味が!」「『ウォンテッド』のあのシークエンスは、こういう意味で画期的だったんだ!」など、勝手に気づかされるものも多かったです。リックとジェフの解説を聞くことで、古今と東西の作品が、ものすごい勢いで有機的につながっていくんです。

もちろん、ひょっとしたらこれらは、映画に詳しい人には既に周知の事実ばかりなのかもしれません。でも、少なくとも広東語のできないあたしには、こうした先達なしでは永遠に気づかなかったであろう点が多かったです。「いつかこれぐらいの切り口のレビューが書けるようになりたいものだ」と強く思わされました。充電期間を設けたのには、やはり意味があったようです。もうしばらく、楽しみながら「充電」を続けたいと思います。