ヒューマン・ライツ・ウォッチ「東京都知事は同性愛者差別発言を撤回すべき」


2011年2月1日、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチが、「東京都知事は同性愛者差別発言を撤回すべき」との意見を発表しました。
詳細は以下。


2010年12月初旬、石原知事は2度にわたり、メディアにおける同性愛者の扱いを批判するとともに、レズビアンとゲイの人びとは「どこか足りない感じ」がし、遺伝的に問題があると発言した。知事のこの発言は、日本の人権週間(12月4日〜10日)の直前及びその最中に行われ、地方や全国のメディアを通じて報道され、インターネット上でも広く発信された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチレズビアン・ゲイ・バイセクシャルトランスジェンダーLGBT)人権プログラムの調査員ディピカ・ナットは「日本は同性愛行為を刑事処罰の対象とはしていないものの、LGBTの人びとは、家庭内や職場、その他の社会的、職業的な環境で日々差別と偏見にさらされている」と語る。「石原知事の発言はレズビアンやゲイの人びとへの偏見を増大させ、既に社会の片隅に追いやられている人びとに対する差別を悪化させる可能性がある。」


日本国憲法は平等権を保障しており、あらゆる差別も禁止していると解釈されている。しかしながら、公営住宅法第23条第1項のように、現行法は事実上、同性のカップルに対して公営住宅への入居を禁止している。
日本政府は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約:ICCPR)締約国であり、同規約は差別を包括的に禁止している。各国のICCPR順守状況を監視する国連の自由権規約委員会は、2008年の第94回会期で、日本はICCPR規約上の責務を果たすために、公営住宅法などの差別的な法律を改正し、差別禁止の事由に性的指向を含めるよう勧告した。しかし、LGBTやその他のマイノリティが直面している様々な差別に対処するための包括的な差別禁止法の必要性が明確であるにも拘らず、日本政府はいまだその措置を何らとっていない。
「全都民の人権をまもり、その福祉を実現する責務をおっている石原知事が、レズビアンやゲイに対し、他の人びとよりも劣っているかのように位置づけた発言に、重大な懸念を抱いている。」前出のナットはこう述べる。「公職に就く者が特定のグループに対して軽蔑的な見方を表明することは、それらの人びとが尊厳を持って生きることを阻害する。自らが加えたダメージをしっかりと修復するのは知事の責任である。」

公営住宅同性カップルが入居できないっていうのはすごく重要な指摘だと思います。同性カップルにやさしい住宅政策? - [恋愛(後藤純一)] All Aboutによると、公営住宅法第23条1号では、公営住宅の入居資格として「現に同居し、又は同居しようとする親族があること」と書かれているのだそうです。異性愛者の既婚カップルは、配偶者がすなわち「親族」ですから、公営住宅に住むことができます。でも、法律上は他人同士でしかない同性カップルは、入居することができません。
ちなみに異性同士のカップルなら、結婚していなくても内縁関係(“「婚姻の届出をしない」が、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」「その他婚姻の予約者を含む」という婚姻を前提とするもの”)にあれば入居可能。法的に「内縁」(あるいは『事実婚』)とはみなされない同性カップルは、ここでもつまはじきです。

大阪府住宅供給公社など、独自に同性カップルの住宅入居を認めているところもあるにはありますが、国の法律そのものの差別性は改善されないままです。今公営住宅法について調べたら、第1章第1条には、


第一条  この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

とご立派なことが謳ってありました。でも、実情は、


第一条  この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を異性愛者のためにだけ整備し、これを住宅に困窮する低額所得者のうち異性愛者だけに対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

とでも言った方が正確なわけ。

こんな国で、首都の首長が、同性愛者への蔑視をさらに煽ってることが問題視されない方がおかしいわ。日本では「排除につながらなければホモフォビアは表明してもいい」(要約)みたいなことを平気で言う人がいる(参考)けど、つながらなければも何も、排除は既に起こってるんですよ。公営住宅法だけじゃなくて、健康保険法やその他の法律だってそうだよ!! そこをガン無視で「排除につながらなければ〜」なんて、寝言は寝て言えっつーのよ。「ホモきもい」だの「怖い」だの「遺伝的に問題」だのっていう価値観をいちいち維持強化され続けたら、公営住宅を始め国民が享受できるはずのシステムは、いつまでたってもご立派な特権階級・異性愛者様のためだけに設計されたままでしょ。それが迷惑だって言ってんだよ。そんなわけで、具体的に「何がいけないのか」を指摘して意見表明してくれたヒューマン・ライツ・ウォッチに感謝します。