フェイスブックが機械的に言葉狩り? ゲイ作家のページが削除される

ゲイの作家Frank Anthony PolitoさんがフェイスブックFacebook)上に置いていたゲイ小説『Band Fags!』のファンページが、運営によって削除されてしまったというニュース。
Politoさんは、フェイスブックはロボットによるスキャンで機械的に「不快な」語を判定してページを消しているのではないかと語っています。

ちなみに問題の『Band Fags!』という小説はこちらです。

Band Fags!Band Fags!

Kensington Pub Corp (T) 2008-06
売り上げランキング : 350404

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

これは80年代を舞台に、ふたりの10代少年ジャックとブラッドの複雑な関係を描くゲイ小説だとのこと。出版は2008年で、ラムダ文学賞Lambda Literary Award、すぐれたLGBT文学に与えられる賞)にノミネートされています。以下、米Amazonの「最も参考になったカスタマーズレビュー」より引用。


『Band Fags』は端から端まで読みやすく、とても愉快な作品です。読者はジャックがネガティブな状態でいる時でさえ、思わず彼を応援してしまうでしょう。というのは、全体的に見て、ゲイならだれでもジャックと同じ状況に置かれたことがあるからです。最後のページをめくるとき、あなたはジャックは大学でどうなったんだろう、そしてブラッドはと考えている自分に気づき、この本には絶対に続編が必要だと思うでしょう。
Overall, Band Fags was a easy, and very enjoyable read. You find yourself rooting for Jack, even in his less positive moments, because overall, anyone who was gay has been in his situation before. And as you turn the last page of the book, you find yourself wondering what happened to Jack in college ... and what happened to Brad ... and you realize this book is absolutely begging for a sequel.

このようなお話のファンページであるにもかかわらず、おそらくは「fag」(『オカマ』『ホモ野郎』の意)という単語だけで問題視されて、削除されてしまったらしいんですね、どうも。著者自身のブログによると、フェイスブックからは、こんな通知が来ていたそうです。


あなたはフェイスブックの用語規定に違反するページを作成しました。フェイスブックのページは、明確なビジネスまたはプロモーション目的のみに使われるものです。悪意あるもの、脅迫的なもの、わいせつなものは許可されていません。また、フェイスブックでは、個人や集団を攻撃するページ、権限のない個人によって作成されたページも取り下げられます。あなたのページが上記のいずれかの理由で除去された場合、ページが復元されることはありません。フェイスブックの悪用を続けた場合、アカウントが永久剥奪される可能性があります。
You created a Page that has violated our Terms of Use. A Facebook Page is a distinct presence used solely for business or promotional purposes. Among other things, Pages that are hateful, threatening, or obscene are not allowed. We also take down Pages that attack an individual or group, or that are set up by an unauthorized individual. If your Page was removed for any of the above reasons, it will not be reinstated. Continued misuse of Facebook's features could result in the permanent loss of your account.

PolitoさんはThe Advocateに対し、「これまでfacebook.com/bandfagsというURLについて苦情を受けたことはありません」「フェイスブックにはサイト上のあらゆるページをスキャンして『不快な』語を探すロボットがあるみたいです。私のページ上の『fag』という単語に出くわしたとき、フェイスブックはわざわざその単語が使われている理由を調べたりはしなかったのです。彼らは単純に私が憎悪に満ちたゲイ叩きをする人間だと決め込み、私の著作のファンページを取り下げたのです」と語っています。

ゲイに支持され、喜ばれているゲイ小説のファンページが、「fag」という単語だけを理由に「悪意あるもの、脅迫的なもの、わいせつなもの」「個人や集団を攻撃するページ」とみなされているのだとしたら、やはり筋が通らないと思います。機械的な用語規制はかえって差別的にはたらくという好例ですね。

「そんなこと言ったってお前だっていつも百合レビューで『レズ』って単語に怒ってるじゃん」と言われるかもしれませんが、違いますよ。『耽美なわしら』http://www.ishiyuri.com/entry/20070205/1170683829レビュー)で田中彩子が「どうして、レズになるのに言い訳じみた理由が必要なわけっ?」と叫ぶ場面では、あたしは怒ってません。むしろ大好きですこの台詞。『君が僕を(2)〜私のどこが好き?』レビュー)の、「レズのるっちにわかるわけないでしょ〜?」なんて台詞には、むしろ「この作品ってホモフォビアの扱いがうまいなー」と感心したりしています。 『ささめきこと(4)』レビュー)での「レズっ娘」連発にもあたしは怒りませんよ。この語を連発するキャラこそホモフォビックですが、お話そのものの流れは決して同性愛嫌悪的ではないからです。

大事なのは文脈なんです。「ある単語そのものが使われているか、どうか」ではなく、「その単語が(あるいは、その単語を使用した発言が)前後の流れの中でどのように意味づけされているか」が重要*1なんです。

そういう意味では、今回フェイスブックがやったことはお粗末に過ぎると思います。そう言やフェイスブックって、これまでうちの「LGBTニュース」で紹介しただけでも、こんな騒ぎがあったんですよね。

こんな企業だから、クローラだけで(いや、人力で探してるのかもしれませんが)機械的に「fagって書いてあるからダメ」とか平気でやっちゃうんでしょうかねえ。いずれにせよ、消されてしまった『Band Fags!』のページが早く復活するといいと思います。

単語・語句など

単語・語句 意味
overall すべてを考慮に入れて、全体的に見て、端から端まで
root for 〜を応援する、支援する

*1:そういう意味では、単純に「女性同性愛者=レズ」だと思い込んで不用意に「レズの人って○○なんですかあ?」とか言っちゃう異性愛者にはムカムカしますけどね。この単語がどのように使われてきたか、そして女性同性愛者の間でそれについてどんな意見が出されているかという「文脈」を完全無視した発言だから。