『ゴルゴタ』(深見真、徳間書店)感想

ゴルゴタ―Golgothaゴルゴタ―Golgotha
深見 真

徳間書店 2007-09
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面白かったです!! 寝る前に少しだけ読もうと思ったのに、気がついたら午前2時までかかって全部読んでしまいました。
「妙な夢を見るんだ……」元・陸上自衛官の真田聖人は死体に向かって話しかけた。
妻が惨殺された。妊娠六ヶ月、幸せの真っ只中だった。
加害少年らに下った判決は、無罪にも等しい保護処分。
国も法律も真田の味方ではなかった。
憤怒と虚無を抱え、世間から姿を消した真田は……。
全てを失い、全てが始まった。
男は問う――何が悪で、何が正義なのか、を。
深見真. (2007). 『ゴルゴタ』. 徳間書店. 帯より)
……という帯の文句だけだと、あたかも昨今の少年犯罪を下敷きにした単なる復讐譚のように見えてしまうのですが、この『ゴルゴタ』はそんな小さな枠にとどまる小説ではありません。もっと深くて熱くてハードで、読む人すべてを当事者として巻き込んでしまうものを根底に秘めています。もちろん銃器やアクションの描写などはいつもの深見節満載で、純粋にバイオレンス小説として楽しむこともできるのですが、それだけではもったいないでっかい話だと思いました。

これは復讐譚ではない

真田は加害少年たちにすさまじい報復を加えます。けれど、彼の真意は単純な復讐などではありません。目的達成のために確実に行動していく彼の姿は、まるで機械かよく訓練された猛獣で、最後までまったく目が離せませんでした。映画『バウンド』の拷問シーンもかすんでしまうほどの暴力行為を彼が最終的にどう利用するのかわかったときは、「まさか」と「なるほど」という相反する二つの想いで魂が震えました。彼は単なる復讐鬼ではなく、誰にもできなかった「問題提起とその解決」(作中より)を力技でやり切ってみせたダーク・ヒーローなんだと思います。

これは他人事でもない

真田の抱えている凄まじい怒りと鬱屈は、実は他のキャラクタたちにも通じるものがあります。「この国のクソ法律」に腹を立てるベテラン刑事長間も、「――果たして、この国に守る価値はあるのか」という真田の元部下古馬里香のことばも、苛烈ないじめが横行する学校を辞めてワーキングプアに成り下がった保品準の憂鬱も、みな根底にあるのは「この腐れた国をいったいどうすればいいのか」ってことでしょう。
そして、これは、『ゴルゴタ』を読むすべての人の喉元にまっすぐ突きつけられた質問でもあるんですよね。少年法を、国防を、警察をどうするんだ? こんなにむちゃくちゃなことが横行しているこの国をどうするんだ?
これは、「どこかに悪いやつがいて、そいつをやっつければめでたしめでたし」なんて単純な問題じゃありませんよね。そもそも人間というのは皆等しく罪をはらんだものだから、「どこかに悪いやつが」なんて他人事のように言えたもんじゃありませんし。
誰も答えが出せない、解決策も示せないこの問いに、渾身の力で答えてみせたのが真田聖人という男なんだと思います。その「力」の凄さときたら、読んでいて頭の芯が痺れるほどでした。

その他

深見作品ではありますが、このお話にレズビアンは登場しません。が、狙撃の名手・古馬里香がいい味出してると思いました。男女が適当にくっついてハッピーエンドぶる安手のハリウッド映画みたいには絶対なりそうもない、ユニークなキャラクタ設定だと思います。エピローグでの彼女もお話を引き締めていて、とても良かったです。

まとめ

とにかく熱くて衝撃的なバイオレンス小説。「主人公が敵をやっつけました、ばんざーい」では決して終わらない、骨太な一冊でした。