NTTドコモ「キッズiモードプラス」の差別的なアクセス制限にどう対処するか(2008年12月2日追記あり)

1. NTTドコモの「キッズiモードプラス」は同性愛サイトをアクセス制限しています。

NTTドコモのキッズiモードにはアクセス制限機能がついていて、これは「出会い系サイトなどの有害なサイトへのアクセスを制限することができるサービス」ということになっています。そして、「キッズiモードプラス」のアクセス制限対象カテゴリには、「ライフスタイル(同性愛)」という項目が明記されています。
つまりNTTドコモは、アダルトでない真面目な同性愛サイトであっても、「悪質な情報による被害から子どもを守るため」(引用元:子どもの安全を守るための取組み|企業情報|NTTドコモ)(同:ウェブ魚拓)という名目のもとにアクセス制限をかけますよということです。

これは当の子どもたちにとって、害はあっても益はひとつもない行為であり、既にいくつかのセクシュアルマイノリティサイトでも話題になっています*1

2. アクセス制限がなぜ問題なのか

第一に、すべての子どもが異性愛者に生まれつくわけではないからです。「人類皆異性愛者」というタテマエの中で、同性愛者の子どもは、「きっと自分だけがおかしいんだ」「誰にも言えない」「親を悲しませたくない」と悩み、苦しみに耐えかねて自殺することさえあります。正しい情報へのアクセスは、彼らを救うための第一歩です。同性愛者であることをカミングアウトしている大阪府議会議員の尾辻かな子氏は、以下のように言っています。


「私は変なのかもしれない」そう思った子どもたちに正しい情報を与えられる機会が日本にはありません。アメリカの厚生労働省にあたる部署が1989年に調査した結果では、異性愛者の子どもたちに比べて、非異性愛者の子どもたちの自殺率は2〜3倍高かったという結果がでています。日本ではそのような調査を行政が行ったことはありません。自治体の子どもプランの中に、孤独なセクシュアルマイノリティの子どもたちへの支援は何ひとつありません。

第二に、異性愛者の子どもたちにとっても多様性を知ることはとても重要だということがあります。マイノリティの存在を「なかったこと」にされ、正しい知識を得る機会を剥奪*2されたら、その子たちは差別的な社会構造を再生産する側にたやすく加わってしまいます。「ホモ(レズ)をホモ(レズ)と言って何が悪い」と当事者が嫌がることばを平気で使い、性的少数者に暴力をふるい(例:新木場事件)、職場ではLGBTにいじめや不当解雇をする(例:「締め出される少数者 性同一性障害で解雇」)という偏見持ちの大人の行動を、そのままなぞるようになってしまいます。でもそれは子どもたちのせいじゃなく、誰もそれが悪いことだと教えなかったせいです。正しい情報へのアクセスは、異性愛者の子どもにとっても必要なんです。

3. みやきちからNTTドコモへのメール(2007年3月27日)

ひとりでぶつぶつ文句を言っていても始まらないので、2007年3月27日、ドコモのメールフォームから、以下のようなメール*3を送ってみました。


御社のキッズiモードで「ライフスタイル(同性愛)」を有害サイトとしておられる件についての質問です。

  1. 日経ビジネス2.26号によると、日本の同性愛者の数は人口比4%で、潜在的LGBTレズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスジェンダー)を合わせると約10人に1人がLGBTの可能性があるそうです。
    ということは、キッズiモードを使う子どもたちの中にも、同性愛者は一定の割合でいるはずです。その子どもたちから自分のセクシュアリティに関する正しい情報を得るチャンスを奪うことで、御社や御社のユーザ(保護者層)に一体どのようなメリットがあるとお考えですか?
  2. 異性愛者の子どもにとっても、様々な性的指向について正しい知識を得ることは重要です。それは少数者への偏見や差別を解消するための第一歩だからです。子ども達から情報を遮断し、あたかも世の中には異性愛者しか存在しないかのような間違った認識を持たせることに、どのような意義があるのでしょうか?
  3. もしかして、「子どもは皆異性愛者に生まれついている。有害な情報を遮断すれば、子どもが同性愛者に『なる』ことを防ぐことができる」とお考えですか? (もしそうなら、ぜひその根拠をお聞かせください)

4. NTTドコモからみやきちへの返信(2007年3月27日)

即日返信をいただきましたが、上記の3つの質問に対する明確な回答はありませんでした。以下、返信内容を要約*4したものを載せてみます。(文中の強調は、引用者によるものです)

  • アクセス制限の対象となっているサイトのすべてが、子どもにとって有害なサイトだと考えているわけではない。
  • どのサイトについてアクセスを制限させるべきかについては、ユーザによってそれぞれ価値判断が異なることである。
  • しかし、個々のユーザごとにアクセス制限サイトを選択してもらうのは、「電気通信システムへの負荷などの関係」(原文ママ)で難しい。
  • だから、NTTドコモ側が一定のカテゴリを示した上で、当該カテゴリに従ったアクセス制限機能を利用するかどうかユーザに判断してもらう形をとっている。
  • カテゴリについては、子どもにとって有害であるかどうかではなく、親のニーズに合わせて決定している。

まとめると、「会社としては、同性愛イコール有害だとは思ってない。でも、ユーザが『子どもに同性愛サイトなんか見せたくない』って言うんだもん」ということですね。もっとわかりやすく言うと、差別的な行動を選ぶことによって得をする(=「差別的なサービスを喜ぶ顧客層に、ホモフォビックなサービスを売って利潤を得る」)ことを、NTTドコモは選んだわけです。

現実的には、同性愛に差別的な親はそうでない親より圧倒的に多いでしょうから(参考)、これは企業としてはきわめて合理的な判断ではあります。しかし、これは同時に、不公平な社会構造の維持強化に積極的に加担する(いくら口では『有害だと思っていない』と言っても、です)行為でもあります。あたし個人としては、NTTドコモのこの方針は支持したくないですねやっぱり。

5. NTTドコモのこの方針に、どう対処すべきか

「別にドコモが何をしようと、放っとけばいいじゃーん」とお思いの方は、以下は読まなくてかまいません。でも、「そりゃ、いかんだろ」とお思いの方のために、何ができるかリストを作ってみました。

  1. NTTドコモに問い合わせをしたい方はこちら。
  2. 番号ポータビリティで、ドコモから他キャリアへの乗り換えを検討したい方はこちら。
  3. 「そうは言っても、変に情報を与えてわが子が同性愛なんかになっちゃったらどうするの?」とお思いの方のための情報リソース。

※2008年12月2日追記※

その後、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)が「同性愛」をアクセス制限カテゴリーからはずすべきとする意見書(PDF)を出しました。以下、引用。


ライフスタイル
・同性愛
(ゲイ・レズビアントランスジェンダーの生活スタイルに関する各種情報の提供)


同性愛でも性的な情報を含むサイトはアダルトカテゴリーに分類されており、青少年にとって同性愛自体が有害とは考えられない。性同一性障害については、国内外においてもその理解は進んでおり、同性愛者への差別、青少年の同性愛への偏見を助長することも考えられるためアクセス制限対象カテゴリーとすべきでなく、カテゴリー自体の必要性の有無についても検討が必要と考える。

微妙に同性愛と性同一性障害を混同しているフシも見受けられますが、このようにアクセス制限による差別・偏見の助長を問題視する意見が出てくること自体、とてもありがたいと思います。こうした意見を受けてか、「崎山伸夫のBlog - NTTドコモは同性愛差別を続けるそうです」のコメント欄によると、ドコモは2008年1月9日から「ライフスタイル〜同性愛」を含めたカテゴリーを規制対象から外す予定だそうです。

*1:http://d.hatena.ne.jp/Ry0TA/20070326#1174926084http://www016.upp.so-net.ne.jp/sunagawa/diary.htm【2007年3月25日】、http://blog.goo.ne.jp/kuborie/e/46774d103293d66f1ab354b69760f934など。

*2:もちろん、携帯から同性愛サイトを見る以外にも、セクシュアリティについて学ぶ方法はたくさんあります。ここで言っているのは「正しい情報を得る機会をわざわざ減らすな」いうことです。

*3:なお、この文章は当初抗議文として書いたものだったのを、メールフォームが問い合わせ用のものだったために急遽質問文に直したという経緯があります。文章がぎこちないのはそのせいです。

*4:原文そのものがお知りになりたい方は、miyakichi_x★mail.goo.ne.jp(★を@に変換)までメールをください。