『幸せな食卓』(遠藤淑子、白泉社)感想
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「幸せな食卓」
最終話のラスト1コマがとても好きです。あの表情がとにかく良くて、「たった571(+税)円で、こんなに幸せな読後感をもらっちゃっていいんだろうか」と、しみじみ嬉しくなりました。
ちょっと話は飛ぶんですが、『自家製 文章読本』(新潮社)の中で、井上ひさしが「坊っちゃん」の末尾についてこんなことを言ってるんですよ(pp100-101)。
「坊っちゃん」の「だから」がばあやの後生をねがう坊さまだとしたら、「幸せな食卓」の最後の1コマは、あの家族たちの幸せをねがう祈りだと思いました。そこまでのギャグもドラマも包括して、静かにそこにある祈りなのだと。其後ある人の周旋で街鉄の技手になった。月給は二十五円で、家賃は六円だ。清は玄関付きの家でなくつても至極満足の様子であつたが気の毒な事に今年の二月肺炎に罹って死んで仕舞つた。死ぬ前日おれを呼んで坊つちゃん後生だから清が死んだら、坊つちゃんの御寺へ埋めて下さい。御墓のなかで坊つちゃんの来るのを楽しみに待つておりますと云つた。だから清の墓は小日向の養源時にある。最後の文の上にかぶせられた「だから」には、「日本文学史を通して、もっとも美しくもっとも効果的な接続言」という讃辞を贈りたい。ここでは接続言は思考の装舵手や転轍機であることをはるかに超えて、ばあやの後生をねがう坊さまにまでなっている。「だから」の三文字は百万巻の読経に充分拮抗し得ているのである。
……とか言うとなんか単なるドシリアスな話のようですが、そんなことはないですよ。主人公が歌手という点では「陰謀ロマンス」にも負けず、家族ものという点では退引町シリーズを始めとするこれまでのさまざまな傑作にも負けてない楽しいコメディだと思います。