ジョン・ウェインより、むしろクリスティーナ・リッチに拍手を

以下、『北極海へ―あめんぼ号マッケンジーを下る』野田知佑文藝春秋)p157からの引用。文中の「ルイズ」は、カナダのノーマン・ウェルズ在住のインディアン女性です。

ルイズは昔、初めて町で西部劇を観たことのことを忘れられない。
「あれは確か、ジョン・ウェインの映画だったと思うけど、インディアンが射たれて馬から落ちる度に、ワーッと拍手が起きるの。わたし、どうしていいかわからなくて、オロオロしていた」
最近の西部劇はインディアンが善玉に描かれることが多くなったが、それでもたいてい白人に殺されるので、好きになれない。
ジョン・ウェインのインディアンたちの間に於ける不人気は大したもので、いつか見た「インディアン辞典」という彼等の作った小辞典には、「ジョン・ウェイン=インディアンを最も多く殺した白人のブタ」とあった。
久しぶりにこの本を読んでて、「このルイズのオロオロする気持ちって、レズビアンのあたしがホモフォビックな同性愛映画(あるいは漫画、小説、etc)に接して混乱する気持ちと同じかも」と思いました。「同性愛者が自他の中のホモフォビアに苦しみ、悩み、時として悲劇的な結末を迎える」というストーリーが大好きなヘテロって、要するに、”異性愛強制社会”という名のジョン・ウェインが”同性愛者”という名のインディアンを撃ち殺すところを見てワーッと拍手したいだけなんじゃないの。やだなーそういうの。マイノリティーは、マジョリティーが己の価値観を再確認して満足感にひたるための道具じゃないんだからさー。撃ち殺されて当然のものとして描かれる側としては、「どうしていいかわからなくて、オロオロ」もするわ、やっぱり。
そんなわけであたしは、同じ「インディアン」が登場する映画なら、『アダムス・ファミリー2』*1が好きですよ。あの映画全体が、既成の価値観を片っ端からひっくり返して笑ってみせるというコメディーなんですが、そのひっくり返し具合が最高。さらに、単純にマイノリティーの価値観を賛美して終わってしまわないというひねくれ具合も最高。というわけで、「インディアンを撃ち殺すジョン・ウェイン」に呑気に拍手しているヒマがあったら、あたしは「微笑みながらマッチを擦るクリスティーナ・リッチ」に快哉を叫ぶよなー、と思った次第です。たぶんレンタル屋さんにあると思うので、未見の方はぜひ一度ご覧になってみてください。
アダムス・ファミリー2アダムス・ファミリー2
ポール・ルドニック バリー・ソネンフェルド アンジェリカ・ヒューストン

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*1:インディアンは劇中劇にしか登場しないし、同性愛映画でもありません。念のため。でも、あの「既成の価値観を笑い飛ばす」感覚は必見だと思います。