ニュースの表層だけでは見えてこないもの

表層だけ見ると、「同性愛者にも非はあるのかも?」って感じなのですが……

同性愛者の権利擁護を訴えるデモを強行したロシアや欧米の活動家らがモスクワ中心部で27日、警官隊と衝突、インタファクス通信によると約120人が拘束された。デモを実力で解散させたロシア治安当局の対応をめぐって、欧米の批判が強まる可能性もある。
 活動家らはデモの許可を申請したが、モスクワ市は拒否。しかし市中心部に集まった約200人のうちの一部が第2次大戦の戦死者を顕彰する、クレムリン脇の「無名戦士の墓」に花束をささげようと移動を開始し、阻止しようとしたネオナチ・グループと小競り合いになり、周辺に配置されていた警官隊が参加者を次々に拘束した。
 英国人活動家はロイター通信に対し「平和なデモがファシストや警官の手で鎮圧された。ロシアの恥だ」と治安当局の対応を批判した。(共同)
5/27日の、モスクワでのプライド・パレードで起こった事件に関する報道です。これだけ読むと、「無許可のデモを強行する方にも非はあるのでは」「なぜわざわざ無名戦士の墓に献花しようとしたのかわからない」という印象なんですけど、詳しい状況を見てみると、とてもそんなことは言えなくなってきます。

詳しい状況はこうだったらしい

以下、尾辻かな子さんのブログの記事です。

尾辻さんのブログから引用しつつまとめてみると、まず、デモが無許可だったのは、こういうことらしい。

モスクワ市のパレードを阻止する決断について、市当局によれば平和的なLGBTのデモンストレーションが許可されないのは、まず一つの理由として、参加者の安全を守るのに十分な数の警察官がいないということであった。(プライド前の木曜日の時点では、法廷で市当局がモスクワには400人しか警察官がいないと証言している。) もう一つの理由は、2005年に同じルートでアンチファシストマーチを行った時は、国民の大多数がこれを支持していたため許可したが、ゲイプライドに関してはそうではないため、許可できないとのことであった。
これらは法廷でモスクワ市がプライドを禁止する理由として述べたものだが、ロンドン大学教授ロバート・ウィンタミュは、集会と結社の自由を保障するヨーロッパ人権条約の第11条は反体制的、大衆に支持されないデモをしたり、そういった意見を表明をする権利は守られるべきであるとしており、モスクワ市の挙げた理由は正当ではないと主張する。もし、デモが大衆に支持されないということで結果的に暴力的な人々を集めることになるのであれば、この暴力からデモに参加する人々を守るのは国の義務である。
モスクワ市当局の、大衆に支持されるデモでないから許可しないっていう理屈がわけわかりません。最初から大衆に支持されてる主張なら、いちいちデモしなくたって通るじゃん。そうじゃないからこそ集会や行進という手段で主張を訴える、っていうのがデモでしょうに。それから、警官が400人しかいないとか言う割に、デモ当日は「地元の新聞によると、1000人以上の特別警察隊OMONのメンバーが、公共の秩序を守るという名目で来ていた」(同エントリより引用)っていうのはどういうことなんでしょう。同性愛者の身の安全を守るための人員はないのに、逮捕拘束するための人員ならたっぷりあるってことですかそうですか。
あと、同性愛者と警官隊の衝突にばっかり注目するのはまちがい。警官よりもまず、周りの群集(ネオ・ファシストとか)が同性愛者たちに対して暴力をふるいまくってます。警官隊はそれをろくに防止しようともせず、同性愛者を拘束することにばっかり忙しかったみたい。
過激派はロシア正教の聖歌を歌いながら、「聖水」を振りまき、卵やジャガイモをプライドの参加者に投げつけていた。彼らは「同性愛者はロシアから出て行け!」「ロシアに同性愛者はいらない!」「モスクワをロシア人のために清めよ」などと叫んでいた。
今回のプライドのオーガナイザーのひとりであり、初めてレズビアンであることを公にカミングアウトした、80年代のソ連の時代から活動しているレズビアンアクティビスト、イブゲニヤ・ダブラスカヤがあらわれ、ジャーナリストたちは彼女の方を向いた。だが、彼女がわずか数分話したところで、そこにいた群衆のひとりが彼女に向かって炭酸飲料をかけた。そして道路に顔をこすりつけられながら、彼女もまた特別車両に乱暴に連れて行かれた。
ILGAヨーロッパの役員であるピエール・サーン(フランス)、カート・クリックラ−(オーストリア)もスキンヘッドの人々に追われ暴行を受けた。ピエールは入院にこそならなかったものの、体じゅういたるところに血腫ができ、顔も腫れて、足も負傷している。カートは目に血腫ができてしまった。
つまり、決して、「無許可のデモを強行したバカな同性愛者が、正義と秩序を守る警官隊に鎮圧された」という図式なんかではなかったらしい。本当に悪いのは、いったい誰だ?

次に、無名戦士の墓について。なお、太字強調はみやきちによるものです。

パレードの主催者、ニコライ・アレクセイエフはモスクワのLGBTコミュニティーのメンバーや海外からのプライドの参加者に、それぞれクレムリンの壁のすぐ隣にあるファシズムの記念碑「無名戦士の墓」に午後2時半に来て、献花をするよう呼びかけた。
無名戦士の墓って、反ファシズムの記念碑だったのか! それならLGBTが花束を捧げようとするのは当然じゃないか!(念のため書いておきますが、ナチスが弾圧したのはユダヤ人だけじゃありません。同性愛者も弾圧され虐殺されました。詳しくはWikipediaピンク・トライアングルナチ強制収容所のバッジの項目をどうぞ)
ファシズムの記念碑への献花をめぐって、ファシストが同性愛者を叩きのめすのを黙認するっていったい。モスクワ市当局は、そんなにファシズムが大好きなんですか。だとしたら、2005年のアンチファシストのマーチを許可した意味が通りませんよ。

まとめ

詳しく知れば知るほど、「同性愛者にも非が」なんて寝言は言えなくなってきます。でも、日本のマスコミはここまで詳しい報道なんかしてくれません。ニュースの表層だけを見て、「許可なしで無理矢理デモをする方が悪い」「戦士の墓にオカマが花を持っていくなんて、挑発のつもりか」などと思って終わりにしてしまう人がとても多そうで、あたしはそれが怖いし、悲しいです。

その他雑感

  • 「アタシ、ゲイの人の気持ちがわかるから、気持ちの上ではゲイと同じなの〜!」とか迂闊に口走っちゃうおこげの人って、スキンヘッドのネオナチに取り囲まれてボコボコにされてもまだ「自分はゲイと同じ」って言えるんでしょうかね。言えるんならたいしたもんだが。
  • 「こんなの、外国の話でしょう。日本はまだマシ」と言う人へ。