映画『バッド・エデュケーション』感想

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ペドロ・アルモドバル

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美しい男たちの、残酷なまでの「すれ違い」

この映画に「禁断の愛」だの「倒錯」だのって言葉を持ち込むのはノンケさんの過剰反応だと思います。これは「愛」というよりも、「ゲイキャラ(ゲイというよりトランス? な人もいますが)数人の決して触れ合うことのない心と心」をアルモドバル流に描いた映画だとあたしは受け取りました。

監督自身はコメンタリーでメインキャラの「エンリケ」と「アンヘル」のことを「精神的なつながりや恋愛感情がなく、お互いに関しての理解は肉体的なものに限られる」と言っていますが、それはこの映画内の他のどの組み合わせについても同じだと思います。唯一の例外は少年時代のエンリケとイグナシオぐらいでしょうか。というわけでこの映画は「愛」というより、残酷なまでの「すれ違い」あるいは「空回り」を描いたものなんじゃないかと思ったです。陳腐なドロドロ愛憎劇とはまた違った切り口で、新鮮でした。

>男たちの美しさと色気

イグナシオ/アンヘル役のガエル・ガルシア・ベルナルのすさまじい色気ときたら! 彼がいなかったら撮れなかった映画でしょうね。エンリケ役のフェレ・マルチネスのケツも捨てがたいし、神学校での子どもたちも果てしなく美しいのですが、やはりガエルが惜しげもなくふりまく「美」がこの映画の一番の見所でしょう。

なお、美しさで満ち溢れたこの作品にも、強烈に醜悪なシーンが出てくるのですが、まるでお汁粉の中の塩のように、それが作品全体の味をひきたてていると感じました。うまいやり方ですね。

暗示に満ちた描き方が見事

「神学校寄宿舎での性的虐待」というのが作品の大きな要素であるにもかかわらず、あからさまに陰惨な描き方にはなっていないのが興味深いです。歌の歌詞とか、少年が神父の着替えを手伝うシーンとか、エロティックな示唆に富んでいてよかったですね。寄宿舎以外の描写も、直接的な性行為を見せ付けられるよりもはるかにセクシーな含みを持ったシーンの連続なのですが、それが話に緊迫感を持たせています。

ここが残念

結局あの人がなぜ急にあんなことをする気になったのかかがよくわからない……。ミステリー風に謎を追いかける展開なのですが、とある人がとある行動に出た理由が薄すぎて「これだけ?」という気分になりました。性格、だろうか。それとも実は恋愛感情があったのだろうか。ううむ。字幕で二回、吹き替えでさらにもう一回見返してみたけど、やっぱりよくわかんなかったです。わかんないわかんない、と思っているうちにあっさりめのラストシーンになだれ込んでしまうので、そこが唯一不満だったところかな。

まとめ

ミステリーとして楽しむには謎解きにちょっと不完全なところもあるけれど、それを補って余りある美しさと妖しさと残酷さに溢れた傑作です。ゲイ映画に興味がある人なら、見て損はない作品だと思います。