『「ニート」って言うな!』

「ニート」って言うな!「ニート」って言うな!
本田 由紀 内藤 朝雄 後藤 和智

光文社 2006-01-17
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いや、痛快痛快。「ニート」という言葉を「ひきこもり」とか「甘えた若者」とか、果ては「道徳の欠如した怠け者全般」とかとごっちゃにしてキーキー叫んでるアホどもはなんとかならんのか、とイライラしてたんだけど、この本を読んだらスカッとしたわ。
あたしが以前から変だと思っていたのは、そもそも"Not in Education, Employment or Training"という「ニート」の定義にかすりもしない相手を「こんな奴はニートだからクズだ」と決め付けて得意がるバカが多すぎること。例えば三流大学生やフリーターを「ニート野郎」と罵る人とかさ、高校生レベルの英語さえわかってない奴が何エバッてんだと思うわけですよ。この本では、用語の定義の問題にとどまらず、「ニート」言説の諸問題が非常に明快に書かれており、読んでいてあちこちで深く共感を覚えました。
この本の内容を簡単にまとめてみると、こんな感じでしょうか。

  • ニート」は量的に増えてはいない
  • ニート」の中の、「非希望型」(働く意欲がない人たち)も増えてはいない
  • 日本における「ニート」のイメージは、それまでの流行語だった「パラサイト」「ひきこもり」の印象に影響されている
  • 年長者は自分の不安や憎悪を若者に投影して「ニート」を叩いている
  • メディアは大衆の不安や憎悪を利用して無根拠な煽動を展開している
  • 政治はメディアの煽動から生まれたイメージを利用している

ただの精神論に留まらず、要所要所で調査データを用いて論理的な説明がなされているので、説得力があります。アホなマスコミの一方的な「今時の青少年はダメダメ」論にむかついてる人には、特にお勧め。

『「ニート」って言うな!』の、ニート問題以外でも興味深かったところ

下のエントリであげた『「ニート」って言うな!』ですが、内藤朝雄氏による第2部 「『構造』 - 社会の憎悪のメカニズム』が非常に面白かったです。「ニート」言説のみならず、同性愛嫌悪がなぜ起こるのか考えるのにも役立つと思いました。例えばこのへん(p198)。


透明な社会と不透明な社会という概念が、重要なポイントになります。
さまざまなタイプの人間がさまざまな生き方をしていて、何がよい生き方であるかというのは決められない。ただし、さまざまな生き方をしている人間が、他者を侵害しないで、それぞれの生き方を追及できる社会であればよいではないか、というのが先進国型のリベラリズムです。つまり、社会が不透明であることを肯定する社会です。
ところが、これまで述べてきたような仕方で青少年に憎悪を抱くタイプの大衆には、こういう不透明さがゆるせません。つまり、どんな人間がどんな風な生き方をするかはわからない、この日本という社会の人間像はどんなものかわからない(中略)というその不透明さに耐えることができないのです。ですから、たとえば茶髪でピアスをした高校生がいるとか、援助交際をする女子高生がいる、というだけで、一気に社会や人間の不透明さを感じて、その不透明さを「もたらした」者に対して憎悪と被害感をいだいてしまいます。
あたし、以前から、むきになって同性愛を否定しようとするノンケさんを見ると、「アンタと寝させろって言ってるわけでもないのに、どうして?」と疑問に思ってたのね。無関係の第三者が誰とどう付き合おうと放っておけばいいのに、なぜあんなにも憎んだり嫌ったりあげくのはてには殺したりしてまで(最近もこんな事件がありましたね)必死で絡んでくるのかと。
この引用から読み取れる憎悪のメカニズムを適用して考えてみると、結局ホモフォビックな人というのは、自分の価値観だけですべて理解できる「透明な社会」を乱す「不透明な」同性愛者の存在が許せないのかも。だとすると、わざわざ嫌いな相手に近づいてバッシングをしたりヘイトクライムに走ったりするのは、社会を浄化しようとする必死の試みであるわけか。
そういう人たちにむかって「多様性の尊重を」なんて精神論を言ったって、そりゃ通じないよねー。社会を守る正義の使者気取りなんだもんね。やはりシステムの改変で、他人の自由に手出しをさせない環境条件を整えていくのがベストなんだろうなあ、と思いました。「他人のことは放っとけ」というごくあたりまえのことがあたりまえに実行される世の中になって欲しいよ、まったく。