なぜ今同性婚訴訟なのか(1):イーディスとシーアの物語

米連邦裁判所で、2013年3月26日から、同性婚を禁じるカリフォルニアの州法「提案8号」(Prop 8)の妥当性を問う審理が始まっています。また3月27日からは、結婚は男女間だけのものであるとする連邦法「結婚防衛法(婚姻防衛法)」が憲法違反であるかを問う審理が始まります。

なぜ今、同性婚訴訟なのか。まずは、結婚防衛法を違憲として訴えている原告の女性、イーディス(イーディー)・ウィンザーさんに何が起こったのかを知ってください。

詳細は以下。

イーディス・ウィンザーさんが同性パートナーのシーア・スパイアさんと出会ったのは、1963年のニューヨーク。「ポルトフィーノ」というレストランでのことでした。イーディスさんはニューヨーク大学でコンピュータ・プログラミングを研究しており、IBMに入社が決まっていました。シーアさんは精神分析医。

1967年に、シーアさんはイーディスさんにプロポーズします。結婚指輪ではなく、ダイヤモンドのピンを贈ったそうです。なぜか? 周囲の注意をひきたくなかったから。

それから10年後、シーアさんが中枢神経系の難病である多発性硬化症と診断されたことで、ふたりの運命は大きく変わっていきます。パートナーの看病のため、イーディスさんは収入のいい仕事をやめなければなりませんでした。2007年、すでに四肢麻痺を起こしていたシーアさんは、あと1年の命と宣告されます。シーアさんはふたたびイーディスさんにプロポーズし、ふたりはカナダに引っ越しました。結婚防衛法のため、米国内では結婚できないからです。米国では、たとえ同性婚を法制化している州で結婚したところで、国からは婚姻とはみなされません。

ふたりはカナダで結婚し、2009年にシーアさんが亡くなるまで、法的な既婚者としてそこで暮らしました。シーアさんが亡くなって1ヶ月後、イーディスさんは心臓発作を起こします。幸い命は取りとめたものの、そこに追い討ちをかけるようにして、大きな問題が襲いかかりました。相続税です。

米国の連邦法では、ふたりはあくまで「他人」。異性同士の既婚カップルなら1セントもとられない相続税を、イーディスさんは36万3千ドル(約3430万円)も請求されたんでした。42年間の愛も、難病のパートナーを支え続けた献身も、ジェンダーが同じだというだけで無視されてしまうわけです。カナダで法律婚していたって、ダメなんです。

この、同性カップルだけにのしかかる相続税のことを"gay tax"(ゲイの税金)って言うんですよ。ゲイだけが払わされる税金。スーザン・ソンタグが亡くなったとき、パートナーのアニー・リーボヴィッツが、ソンタグが残した巨額の財産の50パーセント分の相続税をとられるということでずいぶん話題になりました。これだって、もしふたりが異性同士の既婚カップルなら、1セントも払わなくてよかったんです。

ちなみに米国大使館の日本語サイトによると、合衆国憲法修正第5条にはこうあります(強調は引用者によります)。


修正第5条 [大陪審、二重の危険、適正な法の過程、財産権の保障] [1791 年成立]
何人も、大陪審による告発または正式起訴によるのでなければ、死刑を科しうる罪その他の破廉恥罪に つき公訴を提起されることは無い。但し、陸海軍内で発生した事件、または、戦争もしくは公共の危機に 際し現に軍務に従事する民兵団の中で発生した事件については、この限りでない。何人も、同一の犯罪に ついて、重ねて生命または身体の危険にさらされることはない。何人も、刑事事件において、自己に不利 な証人となることを強制されない。何人も、法の適正な過程*によらずに、生命、自由または財産を奪わ れることはない。何人も、正当な補償なしに、私有財産を公共の用のために収用されることはない。
*原文のdue process of law(デュー・プロセス・オブ・ロー)の訳。適正な手続のみならず法の適正な内容も要求 するところからこのように訳される。

結婚防衛法はこの修正第5条に反するものであるというのがイーディス・ウィンザーさんの主張です。

このふたりがどんなカップルだったかは、こちらをごらんください。若き日のラブラブっぷりも出てきますよ。この人たちをこんな目に遭わせておいていいのか? それを争うのが、今回の裁判なんです。