『アンダー・ザ・ドーム(上・下)』(スティーブン・キング[著]/白石朗[訳]、文藝春秋)感想

アンダー・ザ・ドーム 上アンダー・ザ・ドーム 上
スティーヴン・キング 白石 朗

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破壊不能の<ドーム>により外部から遮断されてしまった小さな町の運命を描く恐怖小説。いや、面白かった!! 2段組で上下合わせて1369ページという長さですが、2日間で読み切ってしまいました。
正直言って、上巻はキングの他作品に比べ、きわだってすぐれているとは思えません。展開がスローだし、ステレオタイプな下衆野郎は多いし、血と吐瀉物と糞便と暴力が横溢しているし(これはまあ、いつものキング節ではあります)で、波に乗るまでちょっと時間がかかったのは確かです。が、下巻に入ったらもう、途中で一瞬たりとも止められずに一心不乱に読みふけってしまいました。すげえわこの本。
もっとも面白かったのは、かつてキングが『クージョ』で描いたような「子供の恐怖」があぶり出されているところ。大人たちの愚かさと残酷さが巻き起こす恐怖や、パニックものとしての恐怖だけでもごはんが30杯はいけそうなのに、最後により純粋で根源的なコワさをぐりぐりと描き出していく手腕にしびれました。登場人物に100%クリーンなヒーローが存在しないのはこのためだったか、と感心することしきり。これは「善人がエイリアンや悪人の跋扈に恐怖するお話」ではなく、それより一段深いところにあるおぞましいものをさらけ出す物語なんです。
後半があれだけ面白ければ、上巻のスローさも納得がいきます。これは要するに、大昔のフランス文学が、バルザックなどに比べて「つかみ」が弱かったのと同じではないかと。昔のフランス文学って、貴族が手すさびに書くものだったため、いちいち冒頭で読者をひきつけて買ってもらう必要がなかったんだそうですね。だから思うさまゆっくり書いてあり、それに耐えて読んでいくとだんだん面白くなる。これに比べ、バルザックは商業作家だったので、とにかく買ってもらうために序盤から読者を引き込む工夫がこらしてある。『アンダー・ザ・ドーム』を読んで、キングはもはや≪恐怖の帝王≫という名の貴族なのだなと思いました。モダンホラー小説界で30年以上トップランナーをつとめてきたキングには、もはや小細工で買ってもらう必要がなく、だからこそこの「アクセルをフロアまで踏みっぱなしにする大長篇」(著者あとがきより)が成立し得たのだと思います。
ゴールデンウィークにこの本を読んでよかった。下巻を途中で切り上げて他のことをするなんて、考えられませんから。しばらく個人的にスティーヴン・キング祭りを開催し、昔読んだ本をみな買い直して楽しもうと思っています。