英国、レズビアンカップルに対し、2人とも子供の「親」として出生証明書に名前を載せる権利を認める
- BBC NEWS | UK | Lesbians given equal birth rights
- Lesbians Given Equal Rights As Parents in U.K. :: EDGE Boston
英国で、人工授精で子供を持つレズビアンカップルに、子供の出生証明書に2人とも「親」として記載されることが認められたというニュース。2009年4月6日以降にイングランドまたはウェールズで人工授精を受けたカップルであれば、シビル・パートナーシップ登録をしていなくてもこの権利が保障されるとのことです。
「片方は血がつながってないのに『親』だなんて変!」とか言わないでくださいね。異性愛者の夫婦なら、子連れで再婚しようが、どちらとも血のつながっていない養子を迎えようが、2人とも子供の法的な「親」として認められるという事実を思い出してくださいね。
子供のいるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)というのは、おそらく多くの異性愛者が漠然と想像するよりもずっとたくさんいます。以下、LGBT parenting - Wikipedia, the free encyclopediaよりざっと訳して引用。
多くのLGBTの人々は、過去または現在のパートナーとの間に設けた子を育てたり、養子を迎えたり、人工授精や代理母という手段を用いたりと、さまざまな経路で人の親となっている。(英国などのように)LGBTが里子の保護者となる資格を持っている国もある。アメリカ合衆国の2000年のセンサスでは、女性の同性カップル世帯の33パーセント、男性の同性カップル世帯の22パーセントが、18歳以下の子供が少なくともひとり家にいると報告している。
レズビアンやゲイ男性は、差別への恐れ、性的指向の自我異和的*1なごまかし、愛情、家族を持ちたいという欲求、宗教的な理由などのために、異性愛者との結婚を通じて子供を持つことがある。自分の親がLGBだと知らない子供たちもいる。カミングアウトの問題はさまざまで、子供たちには決してカムアウトしない親もいる。
Many LGBT people are parents through various means including current or former relationships, adoption, donor insemination, and surrogacy; LGBT people are eligible to act as Foster caregivers in some countries (such as the UK). In the 2000 U.S. Census, 33 percent of female same-sex couple households and 22 percent of male same-sex couple households reported at least one child under eighteen living in their home. [1]
A lesbian or gay man may have children within a mixed-orientation marriage either because of a fear of discrimination, to manage Ego-dystonic sexual orientation, affection or love, [2] desire for family, [3] or spiritual reasons. [4][5] [6] [7] [8] Some children do not know they have an LGB parent; coming out issues vary and some parents may never come out to their children. [9] [10]
なお、BBCニュースによると、英国のヒト受精・胚機構(Human Fertilisation and Embryology Authority、HFEA)の報告では、同国で1996年から2008年の間に体外受精(IVF)を受けたレズビアンは728名、非配偶者間人工授精(DI)を受けたレズビアンは5,211人いるとのことです。
そんなわけで子供のいる同性愛者は決して少なくないのですが、困るのは多くの国の法制度は同性カップルの子育て(same-sex parenting)を想定して作られていないということ。たとえばレズビアンカップルが人工授精で子供を産んでも、法律上は生物学的な母親しか「親」と認められず、保険や控除や看護権や相続権や養育権や別れたときの面会権などに関して、異性カップルにはない苦労を強いられるというケースが往々にしてあります。以下、この日記で過去に紹介した事例をいくつか挙げてみます。
まず、米国カリフォルニア州での例。
次に、フロリダ州のレズビアンが裁判を起こした例。
カリフォルニア州ベイカーズフィールドで、レズビアンカップルが、40℃の熱を出した子供を緊急治療室に連れて行った。このカップルはドメスティック・パートナーとして登録済みだったが、病院は生物学的母親にしか付き添いを許さなかった。一般的に病院では子供の親は2人とも治療に付き添えるものだが、この一件では同性パートナーの母親は強制的に待合室で待機させられた。
この裁判の詳細についてはこちらの記事が詳しいです。かいつまんで紹介すると、
- 原告Lara Embryさんは、元パートナーの Kimberly Ryanさんとそれぞれ人工授精で1人ずつ子供を産み、一緒に育てていた。
- 2人とも、当時済んでいたワシントン州のsecond-parent adoption制度を通して、お互いが産んだ子供との養子縁組を済ませていた。
- 一家がフロリダに移住した後、EmbryさんとRyanさんは破局。
- 当初は子供の養育権と面会権はシェアされていた。
- ところがRyanさんはクリスチャンとなって男性と婚約し、Embryさんとその子供との接触を完全に拒絶。
- Embryさんが子供の養育権をめぐって裁判を起こす。
といういきさつだった模様。
このような問題を解消すべく、フィンランドやドイツなどでは近年、同性愛者がパートナーの子と養子縁組することで両方を親とすることが法的に認められています*2。今回の英国の法整備はこうした時代の潮流に乗ったもので、喜ばしいことだと思います。もっとも、このようにいちいちパートナーの子と養子縁組させるより、さっさと同性婚を合法化して異性婚と同じ権利を保障した方が早いという見方もありますが。
翻って日本はどうかというと、絶望的に立ち後れていると言わざるを得ません。「LGBTニュース」カテゴリで日々上記のようなニュースを紹介しているうちのようなサイトでさえ、そうした記事などひとっっつも読まずに百合レビューだけを拾い読みし、掲示板に現れて堂々と以下のように言い放つ人がいる(2009年9月4日の書き込み。該当記事は削除済)というのが日本の現状です。
私は同性愛者について生物学的に反する婚姻を合法にすることには反対で
同性愛を広めようとしない限り同性愛者を迫害すべきではないと言う考え方です。
そのため、現状では同性愛は創作上で楽しむべきものと思っています。
しかし、同性同士により遺伝子レベルで異性間の子と全く変わらない子が作れる技術が確立できれば、
同性愛は異性愛と同等のものとして認められるべきと考えます。
あまりの無知と偏見に、もはや乾いた笑いしか浮かんできませんが、この国にはまだまだ多いんでしょうね、こういう人。
最後に、2009年5月23日に書いたエントリ「フィンランド、同性愛者がパートナーの子供と養子縁組することを認める - みやきち日記」の末尾に書いたことを、もう一度ここに載せておきます。
「同性愛者は子供を作れないから云々」と言った空想レベルの(実際には日本にだってゲイ・ファーザーもいればレズビアン・マザーもいます)議論がまだまだ多い日本をよそに、こうして法整備が進められている国もあるわけです。日本がここまでたどりつくのは、いったいいつの日でしょうか。