『野良女』(宮木あや子、光文社)感想
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ストレスも吹っ飛ぶ女子トーク満載コメディ
わははははは面白え。ストレス抜けるー!!
『野良女』は、三十路手前の女5人のジタバタとすったもんだを描く現代コメディ。あ、百合じゃないですよ、ちなみに。男子が読んだらお道具が勃起しなくなるのではないかと心配になるほどのあけすけなエロトークと、無駄のない文体でテンポよく刻み込まれるギャグ、痛々しいのにどこかすがすがしい独特の雰囲気など、ものすごく楽しかったです。ていうか、この1冊に「わかるわかるー!」と共感しまくるためだけでも、過去に殿方とつきあってた時期があってよかったと思っちゃったわ、あたし。
テンポ良く刻み込まれるギャグ
特に面白かったフレーズをいくつか簡単に抜き出してみます。
不意打ちの脚韻にやられました。
虚無感。孤独感。閉塞感。私の股間。
なぜソレントなのかは、読んでのお楽しみ。飲み物飲みながら読んでなくてよかった。
……無 理 だ !
ていうかソレントへ帰れ!!
ものすごく変なのに、現実にありそうな感覚がひしひしと迫ってくるところが面白すぎです。
「当たり前じゃん。私なんて高校生のころ武将オタクの男に『某(ソレガシ)の某(ナニガシ)が下克上でござる!』って言われたけどそれでもエッチつづけたし、入れるときは『出陣じゃー!』って言いながら突っ込まれたけど、それでも半年付き合ったよ。相手にどれほどのものを望んでるわけ? 少しは自分が我慢しようとか思わないの?」
キャラたちの本音トークについて
これも読んでて楽しかったところをいくつか抜き出してみます。
いつだって私たちは真剣で、新しい異性とコトをいたすときはドキドキするし、三回もヤれば飽きてくる。
くそたわけが! そんな鳥のエサみたいな性交で性欲が満たせるか!!
別に恥ずかしいところでもなんでもない気がするんだけれど、大概の男は「マンコ濡れてきた」と伝えるよりも「恥ずかしいところが潤ってきちゃう」という具合にぼかすと喜ぶ。アホかと思う。
男女が出会って付き合うまでのプロセスは、若年の場合「片思い→告白→お付き合い→キス→セックス」であるが、二十歳を過ぎると「とりあえず酒を飲む同日キス同日セックス→付き合うかどうかのフィルターにかける→OKだったら付き合う」になる。少なくともここにいる五人はそういうプロセスを経て男と付き合っている。世間的に大恋愛と呼ばれるものには縁がない。
特に最後のフレーズには思いっきり膝を打ちました。というのは、やや話はズレるんですが、日頃百合もののレビューばっかりやってると、「若年の場合」パターンのあまりの多さにうんざりしてくるからです。おそらく対象読者層and / orキャラの年齢層が、
- 付き合うとか、ましてセックスするとかがチョモランマの頂上にあるかごとき遠いものに感じられる
- 従って、いちいち「片思い」だの「告白」だのというベースキャンプを張って高地馴化しないと倒れる
みたいな若年層に設定されているが故にそうなっているのでしょうが、大人としてはそんなのばっかり連続で読んでいると時々全身がかゆくなってきて死にそうになります。なので時々たとえば『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいなものでバランスを取る必要があるのですが、この本はそうした用途にまさに最適でした。
……と思ったら、今ふと宮木ログを見たら作者様自らこの本を
と説明していらして、めちゃくちゃ腑に落ちました。そうそう、そんな感じ。中央線の、しかも荻窪より西側ってところがポイントなのよ!
「しょぼくれSexAndTheCity@中央線の荻窪より西側」って感じの本です。
痛々しさとすがすがしさについて
同作者さんの『セレモニー黒真珠』(レビュー)などにも通じることですが、書きようによってはとことんダークな方向に転びそうな要素や、ゾクリと背筋に迫る怖さも含む小説なのに、ギリギリのところでそれらをかわしてひょいっと違う側面を見せてくれるんですよね。それは女たちのタフネスに対する一種の信頼と言ってもいいし、あるいは『花宵道中』文庫版の解説で嶽本野ばらさんが
と看破された「結論」または「答」と言ってもいいかもしれません。お話の中にしたたかに顔を出すこうしたポジティヴさが、日常のあれこれで疲れた心には干天の慈雨のごとくありがたく、心地よかったです。
宮木あや子の作品では(引用者中略)、結局、どうしていいのか解りませんと問題の解答が投げ出されることなくきちんと結論が用意されます。解き方がまるで不明だとしても、考え、とにかく白紙で提出するよりはマシと、テストでアホの生徒がどの問いにも答を書き込み、先生に努力の分だけ点数を貰おうとするポジティヴさを持っているからこそ、これは可能となる。
まとめ
疲れた大人女性にこそおすすめしたい良質のコメディ作品。ダメな友達連中のようなキャラたちのろくでもない話に笑ったりぐっときたりしているうちに、心のコリがほぐれてニヤニヤしている自分に気づくはず。うっかり読んでしまって衝撃を受けた男性にはお気の毒ですが、こういう女子たちって、確かにいるもんなんですよ。